日本の個人世帯現金保有高 ついに100兆円を突破。インフレ懸念はないのか?
日銀の調べでは、2020年12月末の日本の個人世帯現金保有高が初めて100兆円を突破した。前年同期比で5.2%増の101兆円でこれは過去最高の金額だった。
日本の世帯数は約4885万世帯だから、一世帯平均で実に205万円の現金を持っていることになる。
一体どういう事なのか
個人世帯の大部分は日常の出費に必要な以上の現金を持っているわけではないから、富裕層の間で預金にもせず株や債券も買わず現金のまま保有している世帯がかなり増えていると推定できる。
現金預金の合計額は、4.8%増の1056兆円で、現金を除く預金だけでいえば、4.8%増の955兆円だった。
つまり、ほんのわずかだが、現金の伸び率の方が預金の伸び率より多く、預金に金利がつかない現状では預金しておくよりは現金のまま持っておく方が有利だと考える人が増えているということだろう。
インフレ懸念は?
もし政府・日銀が長年にわたって主張し続けてきたように、年率2%のインフレが実現するものとすれば、現金をそのまま保有しているということは、毎年2%ずつ、持っている現金の実質的な価値が下がるわけだから、非常に損な資金の持ち方をしていることになる。
だが、現実に日本経済を見たときに、景気が加熱して物価がどんどん上がるというような兆候がほんの少しでもあるだろうか?
むしろ、ユニクロCEOの柳井正氏が改めて宣言したように消費者は低価格で高品質を望んでいるし、またそれが実現できる経済情勢だと見ているのではないか。
だからこそ、現金をそのまま保有するというインフレになったら非常に弱い立場に置かれる状態を続けているのだ。
もともとインフレは巨額の借金をした国や大企業にとっては返済が長引けば長引くほど、実質的な返済負担が軽くなるという、大きな借金のできる人たちには好都合だが、一般庶民には決して有利な経済環境ではない。
政府日銀が目標とする2%のインフレ率がなかなか実現できず、インフレ率はプラマイ0. 数%という非常に安定した水準にあるのは、巨額の借金をしている国や大企業には好ましくないかもしれないが、ほとんど借金をしていない一般国民にとっては貯蓄や手元の現金の価値が目減りしない好ましい環境だ。
まだ経済全体が製造業中心に動いていたころは、大規模な設備投資をし、大量生産をするほどコストが下がるので結局は国民一般にとって有利になり大きな借金をした大企業が積極的に設備投資をすることを促進するためにインフレが好ましい状態だった時期もある。
ただ、現代経済は工業製品よりはサービスの消費に占めるウエイトが高まっていて、サービスは大規模な設備投資をして量産できるとは限らないし、また量産できたとしてもそれで単価が安くなるわけではないことが多い。
インフレの世の中にしなければ、経済成長率を高めることができないというのは、製造業中心だった昔の経済にいつまでも囚われた考え方で、サービス業中心に動いている現代経済では、そもそも景気刺激策としてはあまり意味のない、無駄な巨額投資を促進する、そしてそのための巨額の借金を奨励する以外の意味はない。
欧米では未だにインフレ率は1〜2%なので銀行預金や国債の金利は実質ベースではマイナスになっている。
日本ではインフレ率が2019年には年率0.5%、2020年にはなんと年率0.0%という低さなので国債の名目金利は低いけれども、インフレ率が低いので実質金利はマイナスではない。
堅実な日本世帯は安泰
インフレ率が非常に低く国債金利も低いけれどもマイナスではない状態は、インフレ率に比べて国債金利が低すぎるので国債を買って持っていると資産価値が目減りする欧米の状態よりは、はるかに健全だ。
さらに日本の場合国債の約半分は日本銀行が買っていて、残り大部分は金融機関や外国人投資家の購入分で、個人世帯はほとんど買っていない。
日本の個人世帯が資金運用のためにあれこれ思い悩むことなく現預金の形で金融資産を持ち続けているのは、全くと言っていいほど利子のつかない銀行預金や現金で持っていてもインフレ率が急上昇することはないと確信しているからだろう。
少なくとも1〜2%のインフレが続いているので、なんとか運用して金利や配当を稼がなければと努力を続けている欧米の個人世帯に比べて恵まれた環境にあると言える。
日本の堅実な個人世帯が真剣にインフレ対策を考えなければいけないような状態は当分こないだろう。
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