民主党政権に変わって、ハイテク大手が独占禁止法によって分割される可能性は高まったのでしょうか? ご質問にお答えしますーーその2
ご質問: GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのハイテク大手についてお伺いします。トランプ政権末期に、こうしたハイテク大手を独占禁止法違反で訴追する動きが広まり、その先頭に立ったのは民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員だったと記憶しています。
民主党バイデン政権に変わったことで、ハイテク大手の事業活動に対する規制が強まったり、巨大化しすぎたこれらの企業自体が分割されたりする可能性がでてきたのでしょうか?
お答え: 残念ながら、ハイテク産業の業界勢力図が画期的に変化する展望は、トランプ政権時代に比べてむしろ下がったと思います。たしかに、民主党は共和党に比べて、女性やLGBTなどの性的少数派、また黒人、ヒスパニック、先住民族(アメリカン・インディアン)などの人種、民族的少数派を代弁する姿勢が顕著です。
第二次世界大戦以前には、それに加えて資本家に対する労働者の立場を代弁する姿勢も維持していました。
ですが、1946年に「ロビイング規制法」という名の総収賄奨励法が連邦議会を通過し、議会に登録されたロビイストを通じてであれば、産業団体や企業からの議員、知事、大統領などへの「献金」がほぼ青天井で許容される時代になりました。それからは、有力産業の大手企業の意向を代弁することにかけては、中小企業経営者に支持者の多い共和党より、大企業重役に支持者の多い民主党のほうがはるかに忠実にやっています。
共和党を支持する大企業の重役クラスもいないわけではありませんが、たとえば、エネルギー産業、鉱山業、金融業の中でも銀行や証券会社といった斜陽化している産業に偏っています。
逆に、民主党支持の大企業重役には、ハイテク大手、ヘッジファンドの創業経営者といった勢いのある業界の代表的な企業を切り盛りしている人たちが多いのです。
このへんの事情を明瞭に示しているのが、次のグラフでしょう。
2019年1月から2020年8月までの20か月間に、GAFA4社とマイクロソフト、オラクルといったハイテク大手の「従業員」が、民主党のバイデン、共和党のトランプ両候補に行った献金額の比較です。
ハイテク大手は圧倒的にバイデン支持に傾いていたことが一目でわかります。
なお、このグラフでの「従業員」とは、CEOやCOOもふくめて本社勤務の正規社員のことです。高給取りの重役や技術開発担当者は入っていますが、下請け企業が運営しているアップルショップやアマゾンのピッキングセンターで働く低賃金の非正規労働者は入っていません。
そして、2020年の大統領選では、ウォール街(金融業界)もまた、極端に民主党に偏った献金をしていました。たとえば、2020年第3四半期(7~9月)には、金融業界からのトランプへの献金額は1000万ドル強にとどまったのに対し、バイデンへの献金額は5000万ドルを超えていました。
ハイテク大手各社や金融業界からの献金が一方的に民主党に集中したのは、抽象的な政治理念や具体的な政策でバイデンのほうがトランプより良いと思ったからではありません。
アメリカ2大政党政治の枠からはみ出すような突拍子もないことをときどき言い出すトランプより、バイデンのほうが操縦しやすいと思ったからです。
そして、現代アメリカの政界でハイテク大手と金融業界に逆らって政権を維持することがいかに難しいかは、中流の下から下層の大衆のあいだでは圧倒的な支持を得ていたトランプの敗北が示すとおりです。
アメリカの大統領選には、かなり昔から巨額のコストがかかっていましたが、2020年の大統領選は露骨な金権選挙に慣れ切ったアメリカの政界通でさえ驚くほどカネのかかる選挙となりました。次のグラフが示すとおりです。
大富豪層にほとんど支持者のいないトランプも、少額献金者の人数で大健闘して、2016年の33億ドルから48億ドルへと45%も選挙費用を増やしました。
ですが、民主党のバイデン候補は、2016年にヒラリー・クリントン候補がかき集めた34億ドルの約2.5倍に当たる84億ドルもの資金を使って大統領の座を獲得したわけです。
この84億ドルという金額は過去のどの大統領選で民主・共和両党が使った費用の合計額よりも大きいのです。
今回の大統領選直後には、あまりにも多くの不正投票、不正開票の事実が暴露される中で、よくまあこんな白昼の暗黒とも言うべき事態をアメリカ国民が見過ごしているものだとあきれました。
でも、冷静に考えれば、あれだけの投資によってバイデンに大統領の座を買ってやったハイテク大手各社や金融業界が「開票してみたらトランプ票のほうが多かった」程度の理由で、この先行投資がフイになる事態を許すはずがありません。
また、新聞、テレビ、雑誌等の大手メディアもほぼ全面的に民主党の有力献金団体ですので、一方的に民主党寄りの報道をしています。
ふり返ってみると、この選挙の3年前に当たる2017年にはもう、バイデン当選のシナリオは決まっていたと思えるデータが出ています。
次のグラフは、1998~2019年のバイデン一家の所得推移です。
まず、アメリカでの上院議員の地位は非常に高く、巨額献金を受け取れる身分ですから、上院議員には大富豪が大勢います。
その中で約40年間にわたって上院議員を務めた後、オバマ政権では副大統領の座まで昇りつめたバイデン一家の年収が、2016年までは約50万ドル、たかだか5000~6000万円程度だったという事実は、バイデンがいかにワイロを贈って自社あるいは自社の属する業界に有利な法律制度をつくらせるためには魅力のない存在だったかを如実に示しています。
そのバイデンが2017年にいたって、突然1100万ドル、約11~12億円の年収を得たのです。
これはもう、何かとお騒がせな言動のたびに低所得層からの支持が強まるトランプの再選を阻止するための民主党候補はバイデンで行こうということに、民主党の有力スポンサー間で話がついたのだということでしょう。
民主党にも自ら社会民主主義者だと公言しているバーニー・サンダースや、上院議員中でも有数の大富豪でありながら、つねに弱者の味方を気取るエリザベス・ウォーレンのような有力議員もいます。
ですが、彼らは自分たちが民主党にとって下層の人たちからも票を取るための「客寄せパンダ」に過ぎないことを自覚していて、決して大スポンサーの意向に真っ向から反する政策を実現しようとはしません。
結論
大手ハイテク企業にとってひょっとしたら企業分割をさせられるような危機は、バイデン政権になって遠のいたと見るべきでしょう。
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