よくないぞ! 周回遅れの日経金融報道パート2
値上がりの原動力はどんどん投機的に変わっている
一見絶好調のアメリカ株市場ですが、じつは株価上昇を牽引する銘柄群の中身がどんどん劣化しています。
去年の秋ごろまではGAFAとか、FANGとか、FAANGとか呼ばれる、情報通信ハイテク分野を代表する企業、具体的にはグーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック、ネットフリックスなどでした。でも、去年の暮れから今年初めには、ヘッジファンドが大量にカラ売りのポジションを持っている銘柄群に移行しました。
ロビンフッドなどの売買手数料無料の株式売買アプリを使って、カラ売り筋に踏み上げ買いを迫ることで株価を上げようとする個人投資家たちが、くろうとであるはずの機関投資家をきりきり舞いさせる相場になったのです。
カラ売りとは、自分が持っていない株を一定の価格で決済期限には売ると約束することです。思惑どおり決済日までに株価が下がれば利益が出ますが、株価が上がってしまったら、市場価格で買って約定どおりの価格で売って差額を損失として吸収しなければなりません。
そのためにはある程度の資金を持っていなければならないので、カラ売りをする際には思惑と違ってもちゃんと損失を吸収できることを示す証拠金を出しておきます。決済日前に株価が上がると、それだけ決済で出る損失も増える可能性が高まるので、証拠金の積み増しを要求されます。これを追い証と呼びます。
この追い証に応じられないときには、カラ売りしておいた株を時価で買って、損失を小さく食い止める必要が出てきます。これが踏み上げ買いです。市場全体としては、買いが増える分だけさらに株価を上げることになります。
ここで注意すべきは、ゲームストップとか、AMCエンターテイメントとかの、踏み上げ買いで株価が上がった銘柄群の実態です。株価が上がったからと言って、業績が良くなっているわけではありません。むしろ、ヘッジファンドなら当然カラ売りをしたくなるようなお粗末な業績のまま、株価だけは急上昇しているケースが大部分です。
今年に入ってから、アメリカ株市場の活気を支える銘柄群はさらに投機色を増してきました。特別買収目的会社(SPAC)という、まだ買収する対象さえ決めていないうちに上場してしまった「株」に資金が群がる異常事態になっているのです。
空箱にカネを入れる愚行を褒めそやす“無責任報道”
4月8日付の日本経済新聞に掲載されていた下のグラフをご覧ください。
IPOによる調達とは、未上場の企業に投資をしていたファンドが、めでたく上場にこぎつけた場合、新株発行増資をして資金を回収することです。まだ上場できるかどうかもわからない企業に資金を投じて上場できるまでに育てたわけですから、高い収益率を確保できる場合が多いのは当然でしょう。
SPACに資金が群がるのは、全然違う話です。これまで未上場株投資やSPACの組成で実績を上げてきた著名なファンドマネジャー個人の手腕を信じて、まだ買収対象も決まっていないうちに上場してしまった空箱に資金を預けるのですから、まったくのギャンブルです。
日経の見出しは「ファンド、投資先の株売却10兆円 1~3月最高 IPOやSPAC関連、大型買収へ余力」となっています。たっぷり軍資金を貯めこんで、ますます活躍が期待できるという論調です。
この記事でも、末尾には「もっとも、株式市場が変調すればこうした資金の流れは一変する。IPOやSPACへの売却が滞れば、ファンドの運用成績の悪化につながる可能性がある」と、一応懸念要因を書き添えています。でも、これは将来の懸念要因ではなく、すでに足もとで起きている事実なのです。
足元の変化にあまりにも鈍感
同じ話題を、アメリカの金融・経済情報サイト『ゼロ・ヘッジ』がどう報道しているかを見てみましょう。
このグラフを見ただけでは、日経報道と同じような論調だろうとお考えになるかもしれません。2019年まではそれほど目立たなかったSPACを通じた資金調達が、2020年には大ブレークし、2021年の第1四半期に入っても順調に伸びつづけていることが図示されているからです。
それにしても、2021年は年初からの1ヵ月半余りだけで、SPACの上場社数も調達金額も2020年通年の半分を超えています。一見絶好調です。ところが、本文を読むとまったく印象が変わります。
2021年3月中旬まであれほど快調に資金を集めていたSPACが、3月最終週はたった2社、4月第1週は3社しか新規上場がなかったというのです。2020年通年で228社、2013~2019年の累計でも170社に過ぎなかったのに、2021年第1四半期だけで計276社も上場していたのですから、まさに様変わりです。
これはもう急ブレーキどころか、突然岩壁にぶち当たったようなものです。SPACの設立にかかわってきた人たちは、それぐらいあわてて回収した資金をぶじ守り抜くことに専念し、ほとんど新規投資をしなくなっているのです。
SPACローンチの激減は、ゼロ・ヘッジの特ダネではありません。ゴールドマン・サックスが、顧客筋だけではなく、メディアにも一般投資家にも公開している、ニュースブレティンに出ていることです。報道機関として、感度が鈍すぎるのではないでしょうか。
コメント
しかし、感性が時代から鈍くなりました。
そこで、ラジオ深夜便を一年間聴いてたら、復活してきました。私のロビン フッドかも。