これでいいのか? 周回遅れの日経金融報道
今年4月8日付の日本経済新聞の金融市場に関する報道で、2つグラフ付きのおもしろい記事を見つけました。ともに、日本を代表する経済・金融紙の報道がいかに信用の置けない内容かを象徴する記事なので、2回に分けてややくわしく論じたいと思います。
日本株は好調だったのに、投資信託の売出し額は過去最高
最初は「投信の日本株売越額、20年度は過去最大 強まる個人離れ 若年層は海外株シフト」という見出しの記事です。2020年度の投資信託への資金流出入は、史上最高の3兆円台の売り越しとなっていたわけです。
下のグラフをご覧ください。
2020年度の売り越し額は、3兆円台と巨額です。おそらく日本の個人投資家が犯した2つの失敗のうちで、日本列島改造論ブームのころの買い越しよりはるかに被害が大きかった、不動産=株価バブルの頂点となった1989年の買い越し額に迫るほど莫大な売り越し額です。
なお、2019年度もかなり大幅な売り越しになっています。しかし、この年は日経平均がかなり下がっていました。年度初めには2万2000円前後だった日経平均は、2019年の年度末(2020年3月)には、いわゆるコロナ・ショックで1万7000円台を割りこむ場面もあったのです。
2020年3月までに、コロナ騒動がこれほど大きくなると予想していた人は少なかったでしょう。しかし、不穏な空気は漂いはじめていました。ですから、2019年度内にこれほど売り越していた日本の個人投資家の判断は、正しかったと言えるでしょう。
2020年度は、打って変わった好調ぶりで、第4四半期(今年の1~3月)には何度か3万円の大台に乗せるほど急騰していました。これほど快調な株価上昇にもかかわらず、2020年度の投資信託からの資金流出は史上最大でした。
日本の個人投資家たちは、とても慎重です。むしろ2020年11月ごろから日経平均が急上昇していたからこそ、大幅な売り越しとなったのではないでしょうか。
日本で投信離れが起きているのは、若い世代が海外志向だから?
長年にわたって「貯蓄から投資へ」という旗を振っていた日本経済新聞としては、なんとか「日本の個人投資家一般が株に見切りをつけたわけではない」と主張したいところでしょう。そこで持ち出したのが、見出し最後の「若年層は海外株シフト」というフレーズだと思います。
つまり、こんなシナリオを描きたかったのでしょう。
「まだバブル崩壊後の底値に到達しないうちに買ってしまった人たちは、10年とか20年とか買い値を下回っていた投信を辛抱強く持ちつづけていた。やっと買い値に戻ったり、それに近い価格になったりしたので、やれやれと解約した。でも若い人たちに人気のある海外株を組み入れた投信にはちゃんと資金流入が続いているので、決して日本の個人投資家全体に株離れが起きているわけではない」
日本経済新聞が「貯蓄から投資へ」のスローガンを打ち出したのは、「銀行よさようなら、証券よこんにちは」が流行語となった1960年代前半のことでした。私が記憶しているかぎりでは、その後日経がこの旗を降ろしたことはありません。時おり足踏みすることはあっても、大筋では株価が順調に上昇していた1980年代末までは、それで良かったわけです。
しかし、1990年代に入っても同じ旗を振りつづけた責任は重大です。もし、当時社会人になりたての人たちがこのスローガンを真に受けて、延々と株や投資信託を買いつづけてきたら、どうなっていたでしょうか。
おそらく、職業人として活躍していた時期の大半を、底なし沼のように下がりつづける株価を相手になんとか目減りさせずに資産を守るために悪戦苦闘していた しょう。損失を取り戻すとか、これ以上拡大しないように食い止めるための努力は、利益を増やすための努力よりはるかに大きな精神的負担を伴います。
幸い、日本の個人投資家は日経の吹く笛に踊らされることはありませんでした。最初のグラフに戻るとおわかりいただけるように、2000~02年のハイテク・バブルのときも、2007~09年の国際金融危機のときも、少しでも異変を察知すると本格的な値下がり前に買いを控えていたのです。
長い低迷期に株への投資を進めつづけた責任を感じているのか
日経は1990~2010年代の失われた30年間に株への投資を勧めつづけた責任を感じているでしょうか。どうも、そうではないように思えます。たとえば、この記事の末尾はこう結んでいます。
「資産形成層の若者は日本株投信をあまり買っていない。若者は株式投資の対象に海外株を選ぶ傾向が強い。日本株と海外株の投信を比較すると違いが鮮明だ。20年度は日本株投信から2月まで11カ月連続で資金が流出した。海外株を組み込んだ投信は3月まで9カ月連続の流入超となっている。」
こんな記事を読んで、「そうか若くて頭も柔軟な人たちは海外株を買っているのか。それなら、絶好調で史上最高値を更新しつづけているアメリカ株を買おうか」などと早まってはいけません。悲惨なことになります。
その点については、月曜日更新のブログ「よくないぞ! 周回遅れの日経金融報道」でくわしくお話ししたいと思います。
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