金融機関救済のために設立された国有資産管理会社が 破綻の危機に瀕する中国経済の不思議

こんばんは 
今日は中国経済の不思議についてお話しします。


不良債権を溜め込む体質の中国国有企業

中国の国有企業の大多数は、とうてい払いきれるはずのない債務を抱えています。企業の定款でどういう業務内容を記載していようが、国有企業の本業は既得権益集団として社員や関連企業に利権をばら撒くことにあるからです。

 

当然、収益の最大化はおろか、なんとか赤字を出さずに経営しようとさえしていません。経営を続けていれば、返しきれない借金が溜まってしまうのは当然のことなのです。

 

中国政府は、何度もこうした国有企業の尻ぬぐいをしてきました。しかし、国際金融危機以降は、4大銀行を中心とする国有銀行に貸しこんだカネの債権放棄をさせるより、不良債権回収のための資産管理会社を設立して、そこに不良債権を集中させるという方針に変わったようです。

 

少なくとも形式的には、債権回収会社が市場の原理を働かせて危ない企業の債務を安く買い取って、経済全体にとって少ない負担で不良債権処理をするという体裁を整えたわけです。

 

ところが、過去23日にわたって、この政府が設立した不良債権処理会社の中でも、規模の大きい中国華融(英文表記ではHuarong)が経営危機に陥っている兆候が明らかになりました。前年の財務諸表を提出すべき期限である331日になっても、監査担当者が「まだ提出できない」と公表したからです。

 


ミイラ取りがミイラになった中国華融資産管理

中国の債券市場が、この中国貨融がどのくらい危ない会社と考えているか、よくわかるデータがあります。

 





 

現在流通中の同社が発行した3種類のドル建て債が「財務諸表の開示が遅れる」というニュースを受けて、どれほど価格が下がったかを示すグラフです。ご覧のとおり、3種類とも額面1ドルに対して時価が3040セント安くなっています。

 

額面どおりの1ドルで買った人も、流通市場に出回るようになってから1ドル10セントぐらいで買った人も、今すぐ売ろうとすれば6070セント台でしか売ることができません。

 


世界中、とくに先進国では債券

利回りが非常に低下しているので、額面に対して34%台の利回りを取れるなら有利だ思って買った人たちも多かったのでしょう。彼らは、かなりの損失をこうむったわけです。しかし、私はこの会社の社債を買った人たちに同情する気はまったくありません。

 

本来、破綻懸念のある企業の債務を、最大限の資金回収ができるようにきちんと査定して買い取ることを使命としていたはずの中国貨融です。

しかし、1979年に「現代の科挙」とも言うべき高考試験に全国トップで合格した頼小民という大秀才が2012年に社長に就任してから、贈収賄、公金横領といった悪事の限りを尽くして、巨額の不良債務を自社でつくり出していたからです。

 

頼小民社長は2018年に逮捕され、ほぼ即時の公開裁判で死刑判決を受けました。その罪状としては、総額で日本円にして275億円にも上るワイロを受け取っていたことに加えて、「重婚罪も犯していた」と書き加えられていたことには、ちゃんと意味があります。

 

頼小民は今年の1月に処刑されました。当然、彼がワイロを受け取っていた企業から買い取った債権は、売り手に有利なように本来妥当な価格よりそうとう高く買っていたはずです。「中国貨融のバランスシートには、いったいどれほど巨額の不良債権が隠れているのか、見当もつかない」と噂されていました。

 

そういう企業の発行した社債が、今年の3月末まで額面を上回る1ドル10セント前後の価格で流通していたこと自体が不思議です。利回りの良さに釣られてこんな社債に手を出してしまった人が損をするのは、自業自得でしょう。

 

なぜ重婚罪が罪状に加わっていたのか?

中国共産党は、資産を食いつぶすだけの国有企業の尻ぬぐいをしてやる負担に耐えかねて、あまりにも乱脈経営をしている国有企業は破綻させる方針に転換したようです。でも、たんに乱脈経営をしているだけの企業に「たとえ国有企業でも潰すぞ」と脅すことには、共産党幹部にも大きなリスクがともないます。

 

贈収賄や公金横領だけで経営者個人の処刑にまで及ぶとなると、中国全土の共産党幹部、地方自治体の高級官僚、国有企業の経営陣で安閑としていられる人は、おそらくひとりもいません。

 

彼らにとっては贈収賄や公金横領も利権分配という立派な仕事の一部ですし、まったくそんなことをしない清廉潔白な人は、警戒されてあまり出世できません。「高い地位に就いたときに、政敵を一網打尽にする野心があるのではないか」と疑われるからです。

 

というわけで、個人としては中華人民共和国史上最大となった275億円を横領した頼小民の罪状にも、「何人も愛妾を囲って贅沢三昧の生活をしていた」という、重要な項目が付け加えられていたのです。「そうか、贈収賄や公金横領だけなら大丈夫なんだな」と胸をなで下ろした各界の有力者も多かったでしょう。

 

それにしても、こんな会社にドル建て債の起債を許す債券市場も異常なら、そのドル建て債に跳びつく投資家も異常ではないでしょうか。

 


 読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

Unknown さんの投稿…
自社株はじめ、腐る資金の展望の暗さはスピードを増すでしょうか?
増田悦佐 さんの投稿…
まさにそれを予期して、米企業経営陣のインサイダー売りが記録的な水準に達していることを、昨日ツィートしました!
もう少し詳しく今日のブログで触れますので是非ご覧下さい。