一見絶好調の米株市場だが、 収益展望の暗さは経営陣がいちばん良く知っている
直近12ヶ月間の米株市場への海外からの資金流入が過去最高の2倍近くに膨らむ
米株市場への海外投資家からの資金流入量が、直近12ヵ月間の累計で3760億ドルと、過去最高だった国際金融危機直前の2000億ドル弱の2倍近くに膨らんでいます。
ご覧のとおり、2016年、2018~19年とかなり深刻な資金流出があったのに比べると様変わりで、すさまじい吸引力で世界中から資金を吸引しているのです。しかし、これが率直にアメリカ経済の強さを反映しているのかとなると、首をひねらざるを得ません。
だが、経営陣は自社の業績を楽観視していない
なぜかというと、企業経営者は自社の将来の業績について、かなり暗い見通しを持っていると考えるべきデータがあるからです。直近3ヵ月で米国企業のインサイダー(経営陣)の売りは、次のグラフが示すとおり買いの35倍近くに達しました。
青の折れ線がS&P500株価指数ですが、2020年春のいわゆる「コロナショック」での一過性の落ちこみ以来、一本調子で急上昇を続けています。
でも、このグラフでご注目いただきたいのは、赤の実線と点線です。実線は過去12ヵ月間の、そして点線は過去3ヵ月間のインサイダー(当該企業の経営陣などの関係者)による自社株の売り越し額の買い越し額に対する倍率を示しています。
一般論として、経営陣は自分が経営している企業の株を買うより売るほうが多いのです。たとえば、企業が自社株買いを発表すると、応募して売却するのもその株を持っている経営陣だったといったケースはひんぱんに起きています。
しかし、通常売り越し額の買い越し額に対する比率は、1年間の累計で見れば5~10倍にとどまっています。3ヵ月間の累計だともう少し大きな比率になることもありますが、過去最高はコロナショック直前の約28倍でした。
それが、直近では12ヵ月間の累計でも21~22倍、3ヵ月間の累計では約34倍と、圧倒的に売り方優勢となっています。もし、経営陣が自社の業績の先行きについて、明るい展望を抱いていたら、これほど大幅な売り越しにはならないでしょう。
なぜ経営陣の将来見通しは暗いのか
アメリカの企業経営者たちが自社の業績について明るい展望を抱けない最大の理由はアメリカの実体経済が、金融市場の好調とは裏腹に、確実に悪化しているからです。
現在、アメリカ連邦政府は際限なく財政赤字を拡大し、名目金利は史上最低水準、実質金利はほぼ一貫してマイナスとなっています。つまり、財政刺激も金融緩和も目一杯にやっているのです。その結果はどうでしょうか。
21世紀に入ってから最初の10年間だけでも、連邦政府の財政赤字は、約6兆ドルから10兆ドル弱へとかなりハイペースで拡大していました。しかし、2010年以降の伸び方は、南北戦争や二度の世界大戦などで、莫大な軍事費を工面する必要があったときをのぞけば、類例を見ないほど急激になっています。
そして、バイデン政権は、さらに財政赤字の伸びを加速させようとしています。一方、アメリカの実質GDP成長率はどうなっているでしょうか。20世紀末の1997~98年ごろ一時的に4%台を回復したことがあったのですが、その後は延々と低下しつづけています。
また、セントルイス連銀調査部の予測では、今後約10年間を通じて1.6~2.0%の範囲内にとどまるようです。
つまり、ケインズ派経済学者の主張する財政刺激も、マネタリストの主張する金融緩和も、まったくと言っていいほど、経済成長率の加速に貢献していないのです。こんな環境の中で、企業利益だけが順調に伸びつづけることがあり得るでしょうか。
勤労者に支払う賃金・給与は横ばいに抑えたり、減少させたりして、利益だけを拡大することができれば、可能かもしれません。でも、そんなことができるのは、非常に強い交渉力を持った有力産業の大手企業だけでしょう。
実際に、直近の数字では大型株ばかりで構成されたS&P500株価指数採用銘柄の約95%が200日移動平均線を上回る株価を維持しています。しかし、小型株で構成されたラッセル3000株価指数採用銘柄では、同じように200日移動平均線を超えた株価を維持しているのは約半数に過ぎないのです。
それどころではありません。アメリカの中小企業は明らかに収益性が急速に劣化していることを示すデータが、次のグラフです。
ラッセル3000採用銘柄中で、その年の当期利益が赤字になっていた企業の比率を示しています。この比率が30%を超えたのは、過去に2回だけで、ハイテク・バブルが崩壊した2001~02年と、サブプライムローン・バブルが崩壊した2008~09年でした。
今回は、バブル崩壊による景況の急激な冷えこみの影響はまだ出ていないのに、赤字企業比率が35%を超えています。こういう時期に米株を買うのなら、経営陣に高値で売り抜けさせてやって、自分は大損をしょいこむ覚悟がいるでしょう。
また、このブログは、筆者個人の考えを示すものであって、なんらかの投資スタンスを推奨するものではありません。
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