中国政府は不良債権回収大手、 華融(Huarong)を潰せるだろうか?

こんばんは 

 

危機を伝えられた債権回収大手、華融のドル建て債価格が回復傾向



先週の水曜日(414日)にドル建て債価格の急落についてコメントした、中国の不良債権回収大手、華融の債券価格が戻してきました。金融当局が「同社の流動性は潤沢なので市場は冷静に対応するように」と表明したことが好感されているようです。


 



 

ご覧のとおり、償還期限が来年427日と比較的切迫している20223.375%債は底値までの下げ幅の約半分、まだ4年先の20255.0%債も約3分の1戻しています。

 

また、買っておけば当該企業が破綻した場合に配当を受けることができるクレジット・デフォールト・スワップ(CDS)の価格も、想定元本の14.66%というかなりの高値から、9.56%へと低下しました。

 

華融のドル建て債をお持ちの方は「これでまあ、今後1年のうちに潰れることはなかろう」とひと安心されたかもしれません。

 

しかし私は、中国金融当局がわざわざ市場の不安をなだめるコメントをしたことのほうが、「華融の破綻もやむなし」と見切りをつけるよりはるかに深刻な問題を示唆していると思います。

 

すでにお伝えしたように、従来の中国金融業界の慣行では、大手国有銀行が国有企業の累積損失や不良債務を債権放棄などによって際限なく救いつづけなければなりませんでした。そこで中国金融当局が考えたのが、債権の回収に市場の原理を導入して、金融業界全体にとって不良債権処理の負担を軽減することでした。


 

具体的には、債権回収専業会社を設立して、債務企業の実態に合わせたきびしい価格で銀行などの金融機関から不良債権を買い取り、不良債権の重荷から解放してやるという方針です。華融は、そのために設立された債権回収業者の中でも最大手クラスの1社です。

 

ところが、その華融のCEOだった頼小民氏は、日本円で275億円にも上るワイロを受け取って、本来支払うべき価格よりはるかに高い価格で銀行などから不良債権を買い取っていたようです。

これは、死刑判決を受けた2018年の公開裁判の中で明らかになっています。

 

また、債権回収だけではなく、投融資や資産運用など、総合金融企業へと手を広げ、自社でも不良債務をつくり出していた可能性が高いと言われています。

これでは、火災現場に駆けつけた消防ポンプ車が、水ではなくガソリンをまき散らしてさらに火事を大きくしてしまったようなものです。


 

消防ポンプからガソリンをまき散らした企業をなぜ救うのか


これだけ乱脈経営をしていた企業ですから、たとえ頼小民氏は経営陣から離れ、今年の1月には処刑されていたとしても、華融の保有する資産の中には、実勢よりはるかに高値で買ってしまった不良債権の山が隠れていると想定せざるを得ません。

 

この不良債権の山を崩すには、まずどの程度の損失を計上する必要があるのかを精査しなければなりません。しかし、結局期限である331日までに決算資料の開示ができなかったという事実が華融ドル建て債価格暴落のきっかけとなったことは、すでに先週お伝えしたとおりです。

 

中国の金融当局は「今後も中国企業があまり不利にならない条件でドル建て社債を発行できるようにしたい」と思っているとしましょう。

それなら、華融のドル建て債保有者には気の毒でも、華融に累積している不良債権の山を暴き出し、それで潰れるものなら潰れてもいいと腹をくくるべきでしょう。

 

そうでもしなければ、国際債券市場の参加者たちは、中国企業の発行するドル建て債全体に対してきびしい評価をするはずです。

ここまで経営実態が悪化した企業のドル建て債発行を許し、債券価格が下落すると口先介入でなんとか債券価格を上げようとする国の企業が発行した社債を買うのは、リスクが高すぎます。

 

今後中国企業のドル建て債一般が、かなりのリスクを上乗せした高金利を提示しなければ買い入れてもらえないでしょう。

中国の金融当局は、中国企業にとってドル建て債による資金調達の道がとざされてもいいと思っているのでしょうか。

 

それはあり得ないでしょう。中国の個人世帯が半強制的に貯蓄させられている莫大な資金は、ほとんどが収益性の低い国有企業への融資で吸い取られてしまい、収益性の高い民間企業は、海外からの投融資に成長の原資を頼らざるを得ない構造になっているからです。

 

中国企業のドル建て債金利上昇は、中国経済全体の成長性を低くする危険があります。その危険を冒して、明らかに不良債権の山となっている企業の発行したドル建て債券への売り浴びせを防ぐような口先介入をしても、中国経済にとって得になることは見当たりません。

 

中国金融当局は、なぜ華融ドル建て債をめぐる混乱を鎮めたのか?


問題を抱えているドル建て債発行体は華融1社ではなく、ほかの大手債権回収企業も、4大国有銀行も、多くの国有企業も同じように不良債権の山を築いていて、華融を潰すと連鎖破綻が起きるのが怖くて潰せないのではないでしょうか。

 

この点について、いかにも中国らしい含蓄のあるたとえ話を見かけました。「お行儀の悪い猿をおとなしくさせるために、鶏を殺すのはいい。だが、猿をおとなしくさせるために虎を殺すのは、リスクが大きすぎる」

 

中国の不良債権回収企業は、殺すのは危険すぎるが放っておけば多くの動物を食い殺しながら自分も死んでいく、虎の大群に育ってしまったようです。


 読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

TOMOO さんの投稿…
増田先生の著書の大ファンです。
投資はするな!を拝読させて頂き、このブログを知りました。

また先生の記事が読める事で楽しみが増えました。

陰ながら応援しております。
増田悦佐 さんの投稿…
ありがとうございます。とっても嬉しいです。
ブログでは、ご質問にお答えしますというシリーズもやっております。もしよければ、国際経済・金融、政治社会情勢などについてご質問いただければ、多少時間がかかることもありますが、私のできるかぎり誠実にお答えしようと思っております。