怖いのはインフレか、デフレか? ご質問にお答えします――その5
こんばんは
今日は、頂いたご質問にお答えします!
Q. アメリカ株の急落について、インフレ懸念で株価が下がっているとの報道がもっぱらです。私は、実は世界がデフレの淵に立っているのではないか、と感じております。どうお考えですか?
A.私もまったく同意見です。
世界は確実にデフレに向かっていると思います。
ただ、デフレが怖いのは、
・返しきれないほどの借金をしている各国政府
・大企業
・金融機関
でして、まじめに働いて生活費をまかない、余裕があるときには安全第一の貯蓄をするといった堅実なライフスタイルの庶民にとっては、デフレは少しも怖くないことも、お伝えしたいのです。
まず、本格的なインフレ到来説の最大の根拠となったのは、今年3月のアメリカの新規雇用者数が91万6000人と、非常に多くの新規雇用が創出されたことでした。
「新規雇用は賃金給与の増加につながり、モノやサービスへの需要を拡大する。一方、もともとあまり好調ではなかった設備投資が去年の春以降極端に減っていたため、企業はこの需要増に応える供給拡大をできず、物価は上昇する」といったストーリーです。
ところが、
需要拡大→→物価上昇→→増産・設備投資拡大→→収益拡大
これらのストーリーは、5月初旬に4月分の雇用統計が出た時点で、すでに崩れていました。
次のグラフにはっきり出ているとおりです。
直前予想では3月の90万人から、100万人の大台に乗せるとか、いやもっと大きくなるとか、景気のいい話ばかりでした。
ところが、実際には増加数が20万人台にとどまったのです。
それ以上に深刻なのが、大幅に伸びたのは娯楽・接客という低賃金職種だけで、それ以外の全部門の合計は減少に終わっていたことです。
たとえば、ウェイター・ウェイトレス・バーテンといった職種は、年収が日本円にして200万円台半ば程度で、お客さんからのチップがないと、なかなか家族を養うのもむずかしい業種とされています。
「インフレで景気が良くなる」と主張する、いわゆるリフレ派の幻想がさらにはげ落ちるデータが発表されました。
直前予想でわずか1%とは言え、前月比で伸びると予測されていた小売売上高が、蓋を開けてみれば横ばいにとどまったのです。
ただ、これは当然のことではないでしょうか。
最近約1年半のあいだに起きた小売売上高の増加は、ほぼ全面的に前トランプ大統領時代の2回にわたる景気刺激策、そして今年1月に就任したバイデン大統領のもとでの第三次刺激策と、政府によるばら撒きの結果でしかないからです。
景気刺激策の一環としてもらう臨時給付は、決して持続的な収入増にはつながりません。こうした給付をもらった消費者全体がもっと財布のヒモを緩め、モノやサービスを大量に買うようになって、初めて生産活動の拡大や国全体としての所得水準向上につながるはずです。
しかし、実際には「今のような低賃金で働くより、臨時給付をもらいつづけるほうが得だ」と思ってなかなか求人に応募しない失業者が増えているほど、雇用条件は悪化しています。
ですから、消費者の財布のヒモが緩むわけがないのです。
アメリカ経済全体で、勤労者の懐はあまり温かくなっていないと信ずべき証拠があります。企業の人件費負担が前年同期比でどの程度伸びていたかを見ますと、次のグラフのとおり、
2020年末でやっと2%台の前半に達した程度で低水準の伸びが続いているのです。
経験則的には、インフレ率が4%を超えるには企業人件費が6%程度伸びていなければならないし、インフレ率が6%を超えるには、企業人件費は年率2ケタの伸びが必要だと言われています。
つまり、そもそもインフレ率が高まるほど、勤労者の懐は温かくなっていないのです。
なぜ、アメリカ企業の人件費率があまり上がっていないかというと、とにかく賃金や給与を抑えるだけ抑えて、株主のために利益を拡大するのが正しい企業経営だという社会通念が強すぎるからです。
実際に低成長にとどまる企業人件費率とは対照的に、S&P500採用銘柄の当期利益率は、2018年第3四半期の記録を抜いて史上最高となっています。
次のグラフをご覧ください。
もちろん、論理的には企業収益だけが伸びつづける状態も想定できます。
たとえば低賃金国の工場で大増産をして、国内の勤労者に支払う賃金給与は抑制しながら、収益増をつづけるといった可能性はあります。
そのために必要な資金は企業の内部留保も潤沢ですし、借り入れや社債発行にしても空前の低金利でできますから、有利なはずです。
ところが、もはやアメリカを中心とする先進国だけではなく、世界中が、『巨額の設備投資をして生産規模を拡大すれば、ほとんど自動的に収益も伸びる』という時代ではなくなっているのです。
そのへんの事情は次のグラフが鮮明に示しています。
ご覧のとおり、世界中で資本集約的な産業に属する企業の株価は低迷し、非資本集約的、つまりあまり巨額の設備投資は必要としない企業の株価が急成長を続けているのです。
❗️ 資本集約的とは、製造装置、建物、土地などに大きな資本投下を必要とするという意味です。
先進諸国だけではなく、世界中の大きな経済圏共通の傾向として、巨額の設備投資をすれば優位に立てる産業が不振で、あまり大きな設備投資をしないでもいい産業が好調です。
もう、低賃金の新興国に生産拠点を移せばなんとかなる、という時代ではなくなったのです。
こうした時代になってから、巨額の設備投資をした重厚長大産業各社は、ほとんど投下資金を回収できないでしょう。
巨額の設備投資をした企業にとって、望みは借り入れた資金の元本を返済するときの実質負担がインフレによって目減りすることぐらいなのだと思います。
彼らは、「今すぐ現金をモノに換えておかないと損をする」と消費者に思わせて、買い急ぎによるインフレを惹き起こしたいのでしょう。
だから、ちょっとでもインフレ傾向になりそうなニュースが出ると、「ハイパーインフレになる」などと言ってあおるわけです。
むしろ、雇用の質の低下などを見ていると、今後深刻な問題となるのは、インフレではなくデフレだと思います。
でも、デフレがほんとうに深刻な問題になるのは、正直な手段では返しきれないほどの債務を抱えながら経営してきた企業や国の場合です。
借金に頼らず働いてきた人たちにとって、デフレは深刻な問題ではありません。むしろ、コツコツ貯めてきた貯蓄の実質価値が増加するのですから、有利な環境です。
もちろん、その貯蓄を潰れるかもしれないような銀行に預けっぱなしにせず、現金にしたり、金を買ったりというかたちで守っておく必要はありますが。
一方、世界中の金融市場では、1990~2010年代の約30年間にわたって重厚長大産業大手各社がおこなってきた過剰な設備投資と、そのためにしょいこんだ債務を整理するまで、低迷期が続くでしょう。
読んで頂きありがとうございました🐱
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コメント
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ゼロ金利解除の前倒し。やはり、デフレ対策が分からないようだ。
アメリカに連れて、中国も段々と、恐慌に向かうようです。