ディクシー大火のすぐそばで捕まった放火犯の哀しい経歴
こんばんは
逮捕されたのは、犯罪社会学
アメリカでは、研究・教育職で
今日はまだ延焼中のカリフォルニア州北部のディクシー大火のすぐそばで、今月10日に放火の現行犯として逮捕された47歳の男性について書きます。
この容疑者の経歴が、現代アメリカ社会のゆがみを象徴していると思うからです。
逮捕されたのは、犯罪社会学
専攻の元大学講師だった
逮捕されたのはゲイリー・メイナード容疑者で、この現場以外にも7月6日から8月7日までの約1ヵ月間に、カリフォルニア州北部の国有林地帯で5~7件の連続放火に関与したとの容疑も出ていると報道されています。
次の地図でもおわかりいただけるように、カリフォルニア州とネヴァダ州とオレゴン州の州境となっている森林地帯は、大きな山火事が続出しているところです。
衝撃的な事実があります。
この容疑者は博士号1つ、修士号3つを持ち、カリフォルニア北部を中心にいくつかの大学で講師をしていました。
ですが、結局准教授以上のテニュア(定年まで同じ大学で講義を続ける資格)を得ることができず、最近では定期的な収入もなく自動車の中で寝泊まりし、食事はフードスタンプに頼る極貧生活をしていたようです。
容疑者がサンノゼに住んでいたころ一緒に暮らしていたガールフレンドは、「彼が精神的にも不安定になり、物価の高いサンノゼでは暮らしていけないので、北部森林地帯のラッセン郡に行くと言ったときに、クルマをプレゼントして別れたが、どうしても放火をするような人とは思えない」と報道陣に語ったそうです。
カリフォルニア州とオレゴン州の州境で起きているディクシー大火に巻きこまれた地域では、すさまじい被害が出ています。
現在、容疑者はサクラメント郡刑務所に拘留中で、もし有罪が確定すれば5年以下の懲役と25万ドル以下の罰金を科されることになります。
もちろん、どの程度の精神的疾患を持っていたのか次第では、免責になる可能性もあります。
私は、この事件の背景として、現代アメリカ社会が陥ったふたつの病状が指摘できると思います。
アメリカでは、研究・教育職で
食べていくのは大変な難事業
ひとつは、大学ですとか、さまざまな研究機関ですとかの研究者の評価基準が、極端に多額の委託研究を引っ張ってくる能力、補助金や助成金を国や大企業から受けられる研究をする能力に偏っていることです。
専任講師や助教といったせいぜい2~3年どまりの短期契約のうちに多額の研究費を引っ張ってこられなかった研究者が、テニュア付きの教授・准教授に昇格する見込みは非常に低いわけです。
当然のことながら、自然科学系では基礎的な学理の研究より応用技術の開発に携わる研究者のほうが有利です。
また、社会科学系でも経営学部や経済学部以外では、かなり無理をしてでもなんとか国や企業から補助金・助成金をもらえそうな研究課題を探し出さないと、安定した身分で研究活動を続けるのは至難のわざです。
経済学部の中でも、ケインズ学派やマネタリストのようになんらかの政策提言をするグループの人たちには、そうした提言で利益が得られる業界や企業から補助金・助成金が得やすいのです。
でも、「なるべく自由競争市場に介入しないことが最良の経済政策だ」と主張するオーストリア学派に属する経済学者は、なかなかテニュアを取れません。
もっと極端な分野としては、都市計画学があります。
「自然に育った都市では、巨大化するにつれて混乱が生じ、ときには機能マヒに至る。だから、整然とした計画のとおりに都市づくりをしなければならない」という学問分野です。
歴史的に見ると、自然に育った都市が機能マヒに陥ることはめったになく、むしろ計画どおりに造った都市が、計画そのものの欠陥によって機能マヒに陥ることが多いのです。
でも、不動産開発業者、有力設計事務所、道路建設工事会社といった強力な支援団体のおかげで、アメリカの大学ではけっこう隆盛している分野です。
話を戻しますと、この事件の容疑者が専攻していた犯罪社会学は、おそらく補助金や助成金の入ってくるような研究がめったにできない分野でしょう。
まあ、「アメリカ全国の市場の約8割を大手2社が握っている刑務所民営化事業を積極的に拡大して、しかもなるべく刑期を長期化して服役者を奴隷的な低賃金で働かせて、業者にたっぷり利益を上げさせることが社会全体にとって好ましい」というような研究でもすれば、研究資金を稼ぎやすいかもしれませんが。
さらに、この容疑者がいくつもの学位を修得する過程で高金利の学費ローンを借りていたとすれば、彼の日常生活がそうとう困窮していたことは確実です。
決して容認することのできない犯罪ですが、アメリカで研究生活を送ろうとする人たちの前には大きな壁が立ちはだかっていることもまた事実です。
しかも、その壁はカネのために自分がしている研究の方向性をねじ曲げたくないと思っている良心的な研究者ほど高く、厚く感じる壁なのです。
迫りくる完全監視社会
もうひとつの大きな病状が、アメリカ全体の監視社会化です。この容疑者の逮捕にいたった経緯については、報道機関によって差があります。
ひとつは、容疑者を不審人物と見た警察関係者が、容疑者の寝泊まりしていたクルマの裏側に現在地発信装置を取り付けていたので、犯行現場を抑えることができたというものです。
もうひとつは、容疑者の使っていたデビットカード式のフードスタンプには持ち主の名前を識別できる現在地発信装置が組みこまれていて、容疑者の行動が常時監視されていたというものです。
どちらにしても、まだ不審人物ではあるがなんらかの罪を犯した証拠はないという時点で、当局は24時間容疑者の居所を監視する態勢に入っていたわけです。
当然、まだ犯罪者と決めつけることはできない不審者を監視のもとに置くことの是非がメディアで議論されると思っていたのですが、その兆候はありません。
地球温暖化、新型コロナウイルス、カリフォルニア州周辺での山火事の頻発などでアメリカ国民全体がパニック状態に陥っているからなのかもしれませんが、これはとても危険なことだと思います。
当局者が「クルマに寝泊まりしていたり、フードスタンプに頼る生活をしているような困窮者は犯罪を犯す確率が高いから、その犯罪を未然に防ぐためにこうした人たちへの監視を強化するのは当然だ」と思っていたとしたら、とんでもないことです。
どんなに困窮していても犯罪を犯さない人まで一緒くたにして、人権にまで貧富の格差をつける発想だからです。
こういう傾向は、なんとしても防がなければならないと思います。
読んで頂きありがとうございました🐱
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