都市型消費は回復したが、都市公共交通は壊滅状態のアメリカ

こんばんは 
今日は、アメリカ国民の消費活動に起きている深刻な事態について書こうと思います。

2021年上半期が終わった時点で、アメリカの消費動向は平穏に戻ったように見えます。

アメリカの個人消費で売上高の高いものから順に、5分野の過去20年弱の月次売上高推移を示したのが、次の5枚のグラフです。

一見平静を取り戻したアメリカの個人消費

まず、過去20年間で驚異的な成長を遂げて、アメリカ最大の小売部門となった無店舗販売です。


ご覧のとおり、新型コロナが蔓延しはじめた直後には、それまでの伸び率からさらに一段ギアを上げた勢いだったものが、今年初めからやや減少に転じました。

中長期的にはまだ伸びそうですが、伸び率は新型コロナ勃発前のペースに戻りそうです。

去年の春先当たりまでは、大勢の人がいる場所に出かけること自体が罪悪視され、それまではインターネットなどを通じたカタログ販売を利用したことがなかった人たちまでどっとこの分野になだれこんだ形跡が濃厚です。

ネットショッピングになれている方たちは、かならずしもカタログどおりのものが届くわけではないことをご存じで注文しているのでしょうが、まだ始めたばかりの人たちのあいだでは失望する人も多かったので、過去3~4ヵ月月次売上高が減少しているのでしょう。

次に「コロナ禍」で最大の恩恵を享受した食料・飲料品店です。


幸い、日本では一貫して感染率も致死率も低かったので、社会全体がパニックに陥ることはありませんでした。

ですが、欧米ではとくに生活習慣病をお持ちのご高齢の方たちがかなり大勢亡くなったこともあり、地方自治体などでも罰則付きで店舗の営業時間を制限したり、分野によっては完全に営業停止を命ずるところも出ていました。

去年の春先には、一般家庭で食料さえ満足に手に入らないといった事態が起きることを真剣に心配する人たちがかなり増えた結果が、食料・飲料品店の売上暴騰につながったのだと思います。

さすがに去年の秋以降は落ち着いてきましたが、それでも現在の水準は2019年までのトレンドよりかなり高い位置です。

私がいちばん安心したのは、アメリカ個人向け消費で3番目に大きな、レストラン・バー部門の売上推移です。


去年の3~4月ごろには、月次売上が「コロナ前」ピークの半分以下に激減していたのですが、今年の春から急激に回復し、以前の成長トレンドの延長線上まで月次売上が伸びています。

もちろん、細かく見ていけば、単独店でやっていた店が営業停止期間に潰れてしまって、そのあとに大資本のチェーン店が開店したといったことは、あちこちであったでしょう。

でも、最低限「レストランに大勢の人が集まって一緒に食べること自体が、疫病を蔓延させる危険な行為だ」といったヒステリックな状況ではなくなっていることがうかがえます。

政府や大手メディアはデルタ亜種の脅威を強調するなど、相変わらず恐怖宣伝一辺倒ですが、一般大衆はもう去年の春のようなパニック状態は脱したと見ていいでしょう。

さて、予想外に小さな売上にとどまっているのが、スーパーなどを中心とする一般大型小売店です。


この分野は、ウォルマートのように良くも悪くも目立つ企業があるので、なんとなくアメリカの小売業界を代表する業態という印象があります。

ところが、実際には2000年代末から延々と停滞から低成長の範囲内で動いていて、コロナ騒動での一過性の伸びがあっても、その勢いを持続できていません。

じつは、巨大ショッピングモール中心に多店舗展開をする大型小売店は、国際金融危機以後ずっと空洞化が続いていたのです。

行き着くまでに時間がかかりすぎるとか、だだっ広い駐車場に停めてから、店に入るまで歩く距離が長すぎるといった不満を典型的な郊外住民が持っていたからです。

その間隙を突いて今や小売全体で5番目の売上にまで成長したのがガソリンスタンドです。


ガソリンスタンドと言っても、売るのはガソリンだけではありません。

日本で言えばコンビニに当たるような品揃えをしていて、大型店舗の駐車場に入れるのがめんどくさいという郊外住民にとっては、どこでも道路沿いにあって、どうせガソリン補給によらなければいけないとき、ついでに細々とした日用品も買えるのがありがたいという利点があるので、重宝しているわけです。

純粋に価格で比べれば、少し割高になることが多いので、小売各分野の中でもっとも景気に敏感な業態です。

景気次第では大きく落ちこむかもしれませんが、一般大型小売店にあと一歩まで迫っているのですから、いかに大型小売店が不人気かわかります。

さて、レストラン・バーのような典型的な都市型消費がほぼ完全に回復したのは一安心ですが、その一方でアメリカ国民全体のクルマ依存度が高まり、公共交通機関の運営がますます苦しくなっているのは、大きな懸念材料です。

クルマ依存度の高まりは都市型消費衰退を招く

まず、自動車走行距離は、地方ではコロナなど影もかたちもなかった2018年の水準を完全に回復し、都市圏でもあと一歩まで迫っています。


ところが、都市内で細々と運行されていた公共交通機関の客足は、壊滅的な打撃からほとんど回復していません。


ご覧のとおり、月次の乗客数がピークでは約1080万人いたのに、大底の去年4月にはわずか70万人程度まで下がり、今年の7月でもやっと220万人程度と、ピークの4分の1にも達しないのです。

もともとアメリカでは、「公共交通機関を利用すると、見ず知らずの人が突然わずかな金目当てに襲いかかってくる危険がある」というような情けない風潮になっていました。

それでも、かなり大勢の乗客がいて運行頻度もそれなりに高ければ、あまり危険はなかったわけです。

現在のような乗客数の低迷が続くと、どんどん運行頻度も下がり、駅で次の電車を待つあいだに危険な目に遭うことも増えるでしょう。

今、アメリカでもわずかに残っていたサンフランシスコ、ニューヨーク、ボストンのような人間が安全に歩ける町から、どんどん金持ちが逃げ出しています

おまけになんとか公共交通機関で職場まで通えていた人たちが、どんどん不便で危険になる公共交通機関を見放してしまったら、どうなるでしょうか。

都市型消費そのものが衰退し、アメリカ経済全体も低迷から縮小に転ずる可能性が高いと思います。

自動車が都市を滅ぼす傾向については、近日刊の拙著『クルマ社会七つの大罪 増補改訂版 自動車が都市を滅ぼす』にくわしく書いておきました。ご興味がおありでしたら、ぜひお読みください。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント