中国でパーフェクトストームが起きている

こんばんは
投稿が大変遅くなって、申し訳ありません。
今日は、中国経済がほんとうに危ない局面に差しかかっていることについて、書きます。

世界最大の単一資産市場、

中国の不動産が崩壊しはじめた

まず、次のグラフをご覧ください。


私も、中国居住用不動産市場の異常な肥大化は知っていたつもりです。

でも、金額ベースでアメリカの居住用不動産の約2倍の規模があって、ひとつの国の1種類の資産としては世界最大だという事実には驚きました。

さらに、中国の不動産業界はGDPの約29%を担っているのだそうです。ちなみに、アメリカの不動産業界がGDPに占めるシェアは6.2%に過ぎません

しかも、この62兆ドルのうち、約6分の1がまだ販売していないうちの業者在庫だというのです。

年間売上の約6分の1なら2か月分ですから、決して多くはありません。

もし年間売上の約6分の1であれば2か月分ですから、決して多くはありません。
むしろ少なすぎるぐらいでしょう。

※わかりにくかったので、10月16日追記・訂正しました。

でもそうではなくて、現存する居住用不動産の時価総額のうちの約6分の1が業者在庫だというのです。これはいくらなんでも多すぎでしょう。

しかも中国の家計債務は、直近のGDP、約14兆7000億ドルの62%に当たる9兆7000億ドルに達しています。


もちろん、家計債務の全部が住宅ローンではありません。ほかにも自動車ローンとか、クレジットカードの分割払い分とかもあるでしょう。ひょっとしたらアメリカ同様に学費ローンも組んで子どもを大学に行かせている家庭もあるのかもしれません。

ただ、家計債務の大部分が住宅ローンであることはほぼ確実です。しかも、過去3年間でGDPの約22%分、金額にして3兆ドルも増えているのです。

もうローンを完済してしまった人はいいのですが、まだ巨額の残債がある人にとっては、とうてい勤労所得から返していける金額ではなく、購入した物件の値上がり益がかなり大きくなければやっていけない負担になりそうです。

これからも居住用不動産は順調に値上がりが続くのでしょうか。


今度は、過去3年間の土地取引の件数と金額がどう変化したかを示すグラフです。

縦軸の目盛りに注意しないと「ああ、今年に入ってから金額はだいぶ減ったけど、取引件数は微減程度にとどまっているんだね」程度で見過ごしてしまいそうなグラフです。

それどころではありません。目盛りにご注目ください。

今年9月の最初の12日間では件数が約半減、金額にいたってはほぼ90%減、つまり去年の同時期の約10分の1に下がっているのです。

件数が半減で取引総額が90%減ということは、1件当たりの取引額は約5分の1になっているということです。

同じ都市で、突然小額物件だけに取引が集中するということはあり得ません。

おそらく、上海、北京、深圳といった高額物件が多く、今後も値上がり益が望めそうな地域の取引が極度の不振に陥っているのでしょう。

そして、全般的に取引が減少している中で、比較的堅調に取引されていたのは中小都市の小額物件ばかりだったということでしょう。

中国恒大集団の破綻はほぼ確実ですが、これは恒大1社の問題ではなく、中国不動産市場全体の問題だということがおわかりいただけたと思います。

中国経済は、居住用不動産市場が崩壊するだけでも、間違いなく深刻な不況に陥るでしょう。

でも、中国の場合、間の悪いことにちょうど居住用不動産市場が崩壊に転じたさなかに、深刻な電力危機も発生しているのです。

中国の大部分で深刻な
電力不足が生じている

まず、どれほど広大な地域で電力供給に制限がかかっているかをご覧ください。


この地図は、ゴールドマン・サックスが中国経済の現状がいかに深刻化を説明するために造ったプレゼン資料から引用したものです。

青のシェードがかかった省・自治区・特別市が制限のかかっている地域、白抜きが制限のかかっていない地域ということです。

香港を本拠地とするランタウ・グループというコンサル会社も同じような地図を発表しています。

両者を総合して判断すると、北京・上海・天津の3特別市はなんとか制限をまぬかれているものの、そのほかの経済的な重要性の高い省、とくに広東省、福建省、浙江省は一級制限地域としてかなり厳重な制約のもとに置かれているようです。

また、黒竜江省、吉林省、遼寧省のいわゆる東北部3省も一級制限ではありませんが、わざわざ産業用にも居住用にも制限がかかっていると注釈がありますので、そうとうきびしそうです。

その結果、次の写真でご覧いただけるように、クルマのヘッドライトやテールランプは光っているのに、道の両側の建物は真っ暗というシュールな光景が、あちこちで見られるようです。


電力不足最大の原因は石炭火力発電の低迷ということで、河南省の省都、鄭州の先物市場では燃料炭の価格が、ついに1トン当たり1500元を突破しました。


中国では燃料炭の先物価格と卸売物価には密接な相関性があって、もし燃料炭先物が1600元に達すると、卸売物価は現状の前年比9.5%上昇から、一挙に前年比30%上昇まで暴騰するという予測も出ています。

年率30%にも及ぶ卸売物価の上昇をすんなり消費者に転嫁できる製造業者はめったにいないでしょうから、そんなことになれば中国経済はすさまじい売れ行き不振、収益悪化に見舞われるはずです。

なぜ、石炭火力発電がこれほど急激に落ち込み、石炭の現物が払底しているのかについては、諸説あります。

オーストラリア政府が中国を仮想敵国とする米英豪軍事同盟、AUKUSの締結に踏み切ったので、中国がオーストラリアからの石炭輸入を完全にやめたからだというのも、そのひとつです。

また、中国最大の炭鉱集中地域である山西省で集中豪雨と洪水があり、多くの炭鉱が稼働できなくなっているからだとの説もあるようです。

たしかに、中国内の炭鉱の所在地を規模別のヒートマップにしたものを見ると、山西省にはとくに大型の炭鉱が集中しています。


しかし、1国からの輸入が全減となったり、1省の炭鉱のうちの多くが稼働できなくなったりといった程度のことで、中国全土が電力危機に陥るほど石炭の供給量が激減するものでしょうか。

私は、一国のエネルギー資源の需給を大きく揺るがす事態が発生したとすれば、政治的な駆け引きや自然災害だけに原因を求めるのは無理があると思います。

供給だけではなく、需要側の事情も見る必要があるし、中国政府のエネルギー政策全体がどういう方向を目指していたのかも検討すべきです。

まず、需要側から見ていきましょう。


去年の年初から8月までの電力需要の伸びが異常と言ってもいいほど低かったのとは様変わりで、今年8月までの電力需要は前代未聞の大幅な伸びとなりました。

この段階ですでに、中国政府の公式見解には大きなウソがあったことがわかります。

去年の初夏以降、中国政府は「中国は新型コロナウイルスの最初の感染地域となってしまったが、感染が発生した直後から適切な地域封鎖や防疫対策を取ったので、被害は軽微にとどまった」と宣伝してきました

ですが、電力需給を見ると、去年の経済活動はかなり低迷していて、今年になってからその分を取り返すような需要の盛り上がりがあったことがわかります。

ただ、中国政府はこの経済活動の回復を甘く見ていたか、それともそこから発生する電力需要の拡大は、最近急速に強化している「再生可能エネルギー源」による発電でまかなえると考えていたのでしょう。

このへんの事情については10月2日付のヨーロッパ・中国の暗くて寒い冬は100%人災ですに書いておきましたので、ぜひご覧ください。

2000~20年という射程で見ると、中国は石炭火力も「再生可能エネルギー」発電も大きく伸ばしています。

「二酸化炭素は諸悪の根源」説を
すなおに信じたのは習近平かも

ただ、グレタ・ツュンベリが「ほんの少しでも二酸化炭素を排出すること自体が悪業だ」と言いはじめたころから、石炭火力発電所の増加には急ブレーキをかけ、「再生可能エネルギー」発電に全面的に傾斜していったのです。


ご覧のとおり、2021年の石炭火力発電所建設計画は許認可申請中のもので言うと、ギガワットベースで2015年に比べて約6分の1に減っています

そこには、中国が断トツの二酸化炭素最大排出国であり、「このままではいかにも格好が悪いからなんとかしなくちゃ」という焦りがあったのでしょう。


とにかく、「EU諸国やアメリカには10年遅れるけど、2060年までには二酸化炭素排出量をネットでゼロにする」と威勢よく宣言してしまった手前もあります。


中国ほど二酸化炭素排出量が多い国となると、石炭焚きから石油焚きに転換するだけでも3~4割排出量を減らせます。天然ガス焚きにすれば、半分以下になります。

そのほうがずっと現実的な方針なのですが、「それでは2060年までに排出量ネットゼロ」という目標が達成できないと思ったのでしょう。

二酸化炭素は人畜無害で植物にとっては大事な栄養源です。でも、太陽光発電パネルの主原料、ポリシリコンや、ポリシリコンを流し込む「鋳型」にする黒鉛を造るには、大量の二酸化炭素だけではなく、純然たる公害廃棄物もいろいろ発生させるのです。

「オーストラリアからは、いっさい石炭を買わない」などと大見得をきったのも、たぶん「再生可能エネルギー」発電が激増すると期待していたからなのでしょう。

結果は、大失敗でした。「再生可能エネルギー」による発電量はスズメの涙ほどにしかなりません。

中国全土で電力不足になる地域が続々出てきて、脱硫やばい煙除去への配慮も手薄な石炭処理工場や石炭火力発電所の稼働率を高めなければ、経済活動も日常生活もままならないところに追いこまれているのです。


なお、中国の経済活動が低迷すれば、世界中で工業製品不足が起きるというのは中国経済に対する過大評価か、この機会になんとか値上げを通してやろうという思惑がからんだご意見だと思います。

世界は中国抜きでもまったく支障なくやっていけます

中国政府の政策ミスによって、経済はどんどん衰退していくのに公害だけは経済活動が盛り上がっていたころと同じか、もっとひどくなる中で生活しなければならない中国のふつうの勤労世帯の方々にはほんとうにお気の毒ですが。

読んで頂きありがとうございました🐱 ご意見、ご感想お待ちしてます。

コメント

匿名 さんのコメント…
中国の不動産バブル、太陽光発電バブルの分析ありがとうございました。

不動産バブルは、地方政府の財源の主要な部分を占めているので、不足する財源を補う動きが始まると思います。

太陽光発電バブルは、本来は日本の高性能石炭火力発電を導入すべきところを、世界シェアNo.1の太陽光パネルに目が眩んだとしか言えません。

恒常的な発電を確保出来ない所では、現代的な工業生産は維持が出来ないかと存じます。

日本が、好意でODEを供与したのに、戦争でも無いのに烏有に帰すとは、立派な政権過ぎて驚きます。

栴檀の葉
土井としき さんの投稿…
注文の石炭や不動産投資の凄さに、想定以上に驚きました。
また、石油の浪費は言うまでもなくです。
[投資はするな]を改めて読み、忘れたことが書かれており、驚きました。
私ごとですが、旧広島市民球場の跡他利用に生意気な意見をしたらしく恥ずかしい。ただ、自然の必然性を無視したウソは許せない。太陽光などが重視されるのは、やはり
ウソだと改めて実感しました。
今は、やはりエネルギー問題は石油、石油を無視出来ないことを増田さん以外に述べていない、官僚や学者などのエリ-ト達がいることは、何時もだ。増田さんの指摘どおり江戸時代に学ぶべきかも。
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
コメントありがとうございます。
ほんとうに石炭火力としてはこれ以上清潔なものはない技術を善意で無償供与してあげたのに、それを袖にしてグレタ・ツュンベリごときにだまされて太陽光発電に傾斜してしまったのですから、あきれます。
中国も毛沢東・周恩来から鄧小平までは悪党なりに知的能力には凄みを感じましたが、以後は小物ばかりです。とくに習近平は子どものころ文化大革命で走資派副首相の息子としていじめられているうちに知的能力に障害が生じてしまったのではないかと思うほど愚鈍ですね。
日本と違って中国は知的エリートがずる賢くないとやっていけない国なのに、国民の皆様はお気の毒です。
増田悦佐 さんの投稿…
栴檀の葉様:
大事なことを書き忘れました。
先ほど、中国の石炭先物価格が予想どおりトン当たり1600元を超えたことについて、その深刻さをツィッターでお知らせしました。@etsusukemasuda2をぜひご覧ください。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様:
コメントありがとうございます。
旧広島市民球場跡地利用のお話は、ほんとうにおもしろくて貴重なご意見でした。これからもよろしくお願いします。
ほんとうに地球温暖化を避けたければ、自家用車、豪華ヨット、プライベートジェットを捨て、夏の冷房をやめればたちどころに解決します。
真夏に熱中症の犠牲者が続出するのではないかとご心配の方もいらっしゃるでしょう。ですが、人類はもともと夏に暑くなりすぎる場所には定住していませんでした。
夏の熱中症被害が増えたのは、冷房によって自分の家や自動車の中の暖気を外に捨てるようになったから、つまり自分さえ快適なら他人に被害が及ぶのは平気だという西欧的合理主義がのさばりはじめてからのことです。
人類全体が、ムダにモノを溜めず、ムダに暖房も冷房もしていなかった江戸時代を見習うことを切実に願っています。
匿名 さんのコメント…
中国の現状の実態を伺い、驚きました。不動産バブル崩壊では、かつて日本で総量規制から一気にハードランディングに至ったことが思い出され、エネルギー政策での迷走ぶりは、かつての大躍進政策を彷彿とさせます。台湾統一どころではないですね。逆に目逸らしのために台湾統一を強行するのか?、中国は動乱期に入りつつあると感じます。
不動産鑑定士 高橋雄三 さんのコメント…
中国経済についての広く、深く、鋭い切り口での分析、驚きながら精読しました。

「主要国資産内訳比較」の解読文で「年間売上の約6分の1なら2ヶ月ですから、決して多くはありません。むしろ少なすぎるぐらいでしょう」と書かれています。

「年間売上」は、時価総額(時価評価総額)の間違いではありませんか?

時価総額62兆ドルの約6分の1は6.2兆ドル(約700兆円)であり、不良在庫としては驚くべき金額です。

世界経済への影響も「想定外」の大きさになると「想定」されます。

習近平指導部もこの事情は十分に「理解」しているでしょうから、あらゆる手段を使って対応等を打出すことでしょう。

「お手並み拝見」といきたいところですが、火の粉は身近に降りかかりそうです。

クワバラ!クワバラ!
増田悦佐 さんの投稿…
匿名様
コメントありがとうございます。
最近の中国の外交姿勢がつっぱりなのは、排外主義を煽って国民の不満を逸らすというより、米国軍産複合体の予算分捕りに協力して忠勤に励んでいるのではないかと思います。
中国人民解放軍の弱さは、兵頭ニ十八さんが克明に分析しているとおりですし、国民も良く知っていると思います。
「米中「利権超大国」の崩壊」にもちょっと書きましたが、風俗産業では全国大手の一角をなしているのですが。
増田悦佐 さんの投稿…
高橋様
コメントありがとうございます。
「なら」とご引用いただきましたが、原文は「であれば」と仮定法にして実際にはそうではないことを言外に匂わせたつもりです。
お分かりいただきにくかったかもしれません。申し訳ありません。

もう手の打ちようのないところに来ていると思います。
土井としき さんの投稿…
同世代の増田悦佐さんへ。

2つの読書の補強をさせていただきます。

一つは、鈴木明の[維新前夜](小学館) です。スフィンクスの前で34人のちょんまげ写真に驚きました。主人公の三宅復一(秀)が東京大学の医学部の最初の博士。又、[医]を単に人の病気を直す技術ということではなく社会どの繋がりの中で[医学]を捉えたことだ。
私は不器用なだけだ、という三宅秀が貴族院議員の時、沢山の法案を出した。しかし、医学に関することは積極的でなく、34人の1人の矢野治郎兵衛が一橋大学での演説したことが象徴している。私の母校の唯一の先生の福沢諭吉が[君の父君は漢方医と戦い続けてきたのに、親不孝だ]と指摘したが、三宅はケロリとして[わたしは体が古いせいか、按摩や鍼灸が効く]とこたえた。また、風邪一つ直せないといい平凡な大衆の中に生きるた事に感動しました。

もう一つは、E.Hノ-マンの[忘れられた思想家]です。彼が、江戸時代の安藤昌益を発掘した事実に驚きました。日本人でないことは重要だ。
安藤昌益の[直耕]という価値概念は、ノ-マンは触れていないが、全ての思想を否定した昌益の価値観は、やはり大衆の心大事だという価値に帰着するが、彼の思想の深さに大いに感動させられた。
増田悦佐 さんの投稿…
土井としき様
コメントありがとうございます。
E・ハーバート・ノーマン『忘れられた思想家 上・下』、鈴木明『維新前夜』、幸い3冊とも私にとっても愛読書です。
幕末維新期から現在にいたるまで(大東亜共栄圏の熱病に浮かされていたころもふくめて)日本の大衆レベルでの知的偉大さに気づいたのはノーマンだけでなく、『三種の神器』のクルト・ジンガー、『日本精神』のヴェンセスラオ・デ・モラエス、『ジャパン・ウェイ』のN・P・ジェイコブソンと、ほとんどすべて欧米崇拝にどっぷりつかっている日本の知識人ではなく外国人だという事実は、ご指摘どおりとても重要な事実だと思います。
それと関連して、私は三宅秀ほど著名にはなりませんでしたが、花の都、パリに足を踏み入れた直後に「パリの木は瘦せているな。成長するのに時間がかかるのだ」と喝破し、フランスでは大木はアジア・アフリカから輸入していることを確認すると同時に「「だからフランスは東国に向かって貿易を必要としているのだ。木をみればその国の富がわかる。フランスは本来貧しいから強国になったのだ。……日本の参考にはならん」と切って捨てた名倉予可人(あなと)が大好きです。
増田悦佐 さんの投稿…
高橋雄三様:
昨日、大変失礼なお返事を差し上げ、申し訳ありません。
自分では、「であれば」と書いていたつもりでしたが、ご引用いただいた通り「なら」と、非常に紛らわしい書き方をしておりました。
さっそく訂正させていただきます。
貴重なご指摘、ありがとうございました。