中国はいったいどうなってしまったのか? ご質問にお答えします その28
こんにちは
今日はまた、おもしろいご質問をいただきましたので、私なりにこれが正解ではないかという答えを書かせていただきます。
ご質問:中国の前年同期比1月から3月のGDPは4.8%増ということですが、「ホントかよ」という感想しか出てきません。恒大集団があわやデフォルトかというところからの、上海ロックダウンという迷走政策によって中国はどうなっていくのかの見立てをお伺いできればと思います。
お答え:たしかに不動産開発業界で次々に債務不履行が起き、中国最大の都市経済圏、上海がロックダウンされた状態で、前年同期比4.8%増というのは、うさん臭い感じがします。
平常どおり営業でこの数字が出る中国経済の怖さ
ですが、私はこれはたぶんすなおな数字、つまりたとえ下駄を履かせていたとしても、その下駄をとくに高くすることはなく、従来どおりの下駄で出した数字だと思っております。
むしろ、中国経済の怖さは共産党指導部が「こういう数字を出せ」と号令をかければ、ごく自然にそのとおりの数字を出せるところにあるのではないでしょうか。
まず、お尋ねのGDP成長率のグラフから確認しましょう。
「その背伸びした水準からさらに4.8%増とは、あまりにも順調すぎるのではないか」と、誰しもが考えるでしょう。
ところが、中国のように一応市場経済を装いながらも、本質的には統制経済の国では短期的には国が命令したとおりの経済成長はできてしまうのです。
どうすればそれが可能なのかを探ってみましょう。
それなのに、どうして固定資産投資が9.3%増と激増しているのでしょうか?
むしろ、消費も不動産投資もふるわないからこそ、政府は「GDP全体が5%前後の成長になるように固定資産投資を加速させろ」と指令を出したのでしょう。
そして、企業、中でもどんなに不採算なプロジェクトを連発してもたいていは救ってもらえるとわかっている国有大企業が、稼動率が50%にも満たないような工場設備、誰も通らない道路、対岸まで渡れない橋などを乱造して、帳尻を合わせたのです。
もちろん、短期的にはこんな乱暴な投資を積み上げることができたとしても、たとえ現物を取り壊しはしなくてもいつか帳簿の上では減損会計を立てて、GDPから差し引かなければならないはずです。
ところが、中国政府はそこもうまく万年高成長に見せかける手段を持っています。
まず、ほとぼりが冷めた頃にほとんど原価どおりの価格で国有の不良資産回収企業に買い取らせます。
その「債権買い取り」企業が不良資産の山でにっちもさっちもいかなくかったら、大幅に値下げしなければ買い手の付かない資産を簿価で評価して、株と不良資産の交換をさせるのです。
こういう手を使って積み上げてきた経済成長ですから、採算の合わない設備を全部減損会計で消却したら、正味の成長分ははるかに低かったことがわかるでしょう。
不動産部門はとくに過大に評価されている
とくに諸外国と比べて異常に国民経済に占める比重の高い不動産部門で累積している不良資産は、正直に洗い替えしたらどこまで減価するか、想像もつきません。
日本の株価・地価バブルの頂点だった1980年代末でも、不動産業界の比重はそこまで上がっていません。
ところが、中国では不動産業界がGDPの25%以上を占めるようになってから、もう10年以上経っています。
しかも、この高さは住宅があまりにも割高に評価されていることと密接に関連しています。
中国は、アメリカの5倍近い人口を擁しながら、名目GDP総額ではやっとアメリカの7割程度に追いついたところです。
しかし、現存する住宅ストックの評価額を比べると、中国にはすでにアメリカの3倍近い評価額の住宅ストックが存在することになっているのです。
ふつうの市場経済の国で、住宅ストックの評価額がこれほど舞い上がってしまったら、いつか評価が下がることは間違いないにしても、国民経済に大きな影響が出ないように、腫れものに触るように慎重に扱うでしょう。
中国政府は大手不動産企業を潰そうとしている
ところが、中国政府は去年の半ばぐらいから、どうも意図的に大手不動産開発企業を潰しにかかっているようです。
かつて「世界最大の債務をしょった不動産会社」と呼ばれていた中国恒大集団の場合など、必死に金策をして債務不履行を逃れようとしている最中に、過去の建築許可申請に虚偽があったとして、施工中の物件の解体処理を命じられたりしています。
恒大だけではなく、中国政府に睨まれてドル建て社債の元利支払いに支障を来たす不動産会社が続出しています。
その結果、最大の被害を受けるのは、こうした不動産開発業者から物件を買ってしまった消費者です。
中国の場合、設備まで全部開発業者に任せるととんでもない手抜き工事、欠陥工事の物件をつかまされることが多いので、消費者側の自衛手段としてスケルトン渡しが普及しています。
しかし、窓枠はあっても窓自体が入っていない、床も壁も天井もコンクリート打ちっ放しというのは、工事続行資金がどう頑張ってもひねり出せない開発業者の居直りとしか言いようがないでしょう。
しかも、こうした物件がどうやら中国全土で、1省当たり100件単位で数えるほど出てきているのです。
政府は本気で金融緩和をしているのか?
中国政府もやっと重い腰を上げて、法定準備率を引き下げて銀行が融資をしやすくするといった手を打ち始めました。
ただ、どこまで本気で金融緩和によって景気拡大を図っているかとなると、怪しいものです。
つい最近も、「米中の10年国債の金利を比べると、中国よりアメリカのほうが高くなった」と言って、政府が積極的な金融緩和策に踏み切った証拠だとする見解を見かけました。
でも、実際には中国の10年債金利が横ばいだったのに、アメリカの10年債金利が急騰したので、結果として中国のほうが低くなっていただけのことです。
経済・金融より大事なことって、いったいなんでしょうか。
今ごろになって上海全市をロックダウン?
私は、世界中でコロナ騒動も賞味期限切れになりつつあるこの時期に、上海で感染が蔓延して人口約2500万人の大都市を全市ロックダウンするという大騒ぎになったことにそのヒントがあると思います。
でも、現在感染者数の圧倒的多数を占めているオミクロン株は、伝染性が高いけれども致死率は低いことが多くの国で確認されました。
そして、「オミクロンは軽症の感染者を増やして自然免疫を高めることによってコヴィッド-19騒動を終結に向かわせてくれるのではないか」と言われているのです。
そのオミクロン株中心の感染蔓延、しかも上海市が中国全体でいちばん感染者数が多く出たと言っても1日当たり約2600人で、人口の1万分の1程度でした。
これが、全市民を自宅内で軟禁状態にするほど大げさな対策を必要とする事態でしょうか?
しかも、コロナ騒動勃発当時には「果断な措置で大規模感染を防ぎ止めた」と賞賛する向きもあった中国政府の防疫対策が、上海では不手際が目立ちます。
たとえば、「上海市内の高齢者介護病院から明らかに遺体を搬出する霊柩車が出た」という噂が出てから、2~3日のあいだ上海市当局は何もしませんでした。
噂に尾ひれが付いて広まるのを待っていたかのように、あとから「上海市で初のコロナ犠牲者が3名出たが、3人とも他に病気を持っていて、その症状が悪化したために亡くなった」という公式発表をしています。
あるいは、次の写真をご覧ください。
上海市では、病院への酸素ボンベの搬送さえトラックを使ってはいけないことになっているのでしょうか。そうだったとしても、白昼目立つところでわざわざ「酸素吸入をしなければならない患者が増えていますよ」とでも宣伝するような運び方をする必要はないでしょう。
上海市の市政なり、そこに大きな影響力を持っている勢力を失脚させようとする意図が働いているのではないでしょうか。
決定打は富裕層海外移住願望が高まっているとの噂
私にとって決定打となったのは、「自宅での軟禁状態に嫌気がさした上海の富裕層が、真剣に海外の移住先を探している」とのニュース見出しです。
真偽のほどは明らかではありません。おそらくは風聞程度のネタをおもしろおかしく膨らまして書き上げただけでしょう。
ですが、海外に移住してしまう人の多さは、中国政府首脳陣にとって非常に頭の痛い問題です。
次のグラフがその深刻さを示しています。
しかし、たった10年で1050万人もの中国人が、観光客や留学生としてではなく、移民として海外に出て行ってしまうとは驚きです。
約240万人が香港へ、約220万人がアメリカへ、約80万人が韓国へ、そして約77万人が日本へと移住しています。しかも、他の発展途上国からの移民に比べて高学歴・高所得の人が多く、人材流出による被害は人数よりずっと大きなものでしょう。
もっと下世話な話では、習近平の最初の奥さんは中国の駐イギリス大使か、それに近い高位の外交官の令嬢だったそうです。
習近平がまだ中国共産党の若手幹部候補生だった頃、突然「私はイギリスに永住することにしたわ。あなたも一緒に来ない?」と言われて離婚せざるを得ず、その後党内の信頼回復に苦労したといいます。
それにしても、経済が額面どおりの発展をし、人々の暮らし向きも年々良くなっているとすれば、移民収支が年間平均で95万人もの赤字ということがあるでしょうか?
海外移住者の多さは、それぐらい中国にとってセンシティブな問題です。こんな問題は、噂話の段階でもなるべく海外報道陣には知られないように手を打つでしょう。
中国政府首脳が敢えてそうした噂を放置しているとすれば、やはり上海財界人の大物や、彼らの後ろ盾になってきたいわゆる上海幇(シャンハイパン)の政治家たちを失脚させようという意図があるのではないでしょうか。
じつは、恒大集団の創業CEOがあれほどいじめられているのも、彼が上海幇系の政治家と親密だからだという話もあります。
そこで気になるのが、中国共産党政治局常務委員会の勢力配置です。
李克強は、習政権初期には、党幹部の中でもっとも経済に明るい実務家として習近平を支えてきました。しかし、習が自分自身への個人崇拝をあおり立てる姿勢を露骨に出し始めたことに嫌気がさして、今年いっぱいで国務院総理(首相)の座を降りると宣言しています。
習近平としては、上海幇の3人が李克強を取りこめば常務委員会の中で多数派を形成されてしまうことが怖いでしょう。
そこで、機先を制して上海幇叩きに出たというのが、不可解なところの多い上海ロックダウン騒動の真相ではないでしょうか。
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お読みいただいている方から、「中国に入国する移民の数……中国から出国する移民の数……」というグラフの数値の根拠についてお尋ねがあり、チェックし直したところ2020年単年の数値ではなく、2010年時点での国際国勢調査記載分から2020年の同調査記載分までの累計であることがわかりました。
したがって、このグラフを正しいものに差し替え、下の文章でも「たった1年で」を「たった10年で」に、また「年間で950万人もの」を「年間平均で95万人もの」に修正いたしました。
ご諒解いただければ幸いです。――2022年5月26日 増田悦佐
読んで頂きありがとうございました🐱
ご意見、ご感想お待ちしてます。
コメント
1960年代に、国交のない中国との貿易窓口の役目を果たした貿易団体で3年ほど仕事をした経験があります。
多くのことを学び楽しい時間を過しましたが、「文化大革命」の初期症状に疑問を抱き別な道に進んだ経験があります。
その後の60年、中国ウォッチャーの一市民として生きてきました。
中国経済の現況と今後については一定の理解はしているつもりですが、「政治」についてはよく分らない部分が多いと感じてます。
上海の都市封鎖と中国共産党指導部内の権力闘争をこれだけ明解に分析した分析は寡聞にして知りません。
一層の分析・解明を期待しています。
不動産鑑定士
高橋雄三
先生の推測、さもありなんと僕も思いますが、案外 本当に上海でヤバいウイルスが発生していたりして、、、と思う自分もいます。
それにしても中国の不動産業界ってこんな調子ならバブルがはじける事って無いんでしょうか?こんな実態のない経済がいつまでも続くとは思えない。
ご自身のご体験とも照らし合わせての過分なお褒めを頂戴し、ありがとうございます。
今回いろいろ調べてみて、いちばん驚いたのは2020年の1年間だけで1000万人を超える中国人が、他国に生活の場を求めて移住していたという事実です。
いくら総人口が14億人の巨大国家と言っても、毎年この調子で人口が激減していったら、とても保たないだろうなと感じます。
「人間は虎狼が出没するような土地でも我慢して住むが、政治が悪い土地からはどんどん逃げていく」と言ったのは、孔子でしたでしょうか、孟子でしたでしょうか。
うろ覚えですが、そんな故事を思い起こさせる話です。
コメントありがとうございます。
ほんとうにヤバいウイルスが発生していたら、こんな大騒ぎにならないようにあらゆる手段を使って隠すのではないでしょうか。
中国不動産業界のバブルはもう、崩壊過程に入っています。
堤防よりはるかに高い津波が眼の前に押し寄せているのに、コテに盛った堤防のヒビ割れを一生懸命塞いでいる状態だと思います。
気になることがあったので、コメントをさせていただきます。
増田先生の言を聞く限り、中国は発展性があったものの独裁という非効率的な体制がそれを阻害してしまい、
結果世界経済におけるとんでもないリスクとなってしまったと受け取っております。
個人的には中国が健全な発展を遂げることは日本にもいいことだと思っていたので、増田先生の著書を拝見し、
中国経済の実態の一部を知ってかなりショックでした。日本は中国に多額の投資をしている様ですし、
中国が潰れてしまうと日本も大ダメージを受けてしまうのではと心配しております。
経済のルールを捻じ曲げることは結果的に誰も得をしないということなのでしょうね。
初歩的な事を問うようで申し訳ないのですが、アメリカはこれからどうなっていくのでしょうか?
ある方の意見ではまだまだ最強国家であり、借金を使い国富を増やすスタイルが続くとおっしゃっています。
インフレを活かし、どんどんお金を生み出す金満国家だと。
ですが増田先生はそのようなアメリカの体制がいかに脆いものかを語っておいでです。
その方はインフレが借金を消してくれるとも語っておられました。インフレ成長をすることで、借金を圧縮できるとも。
しかし増田先生は私が拝見させていただいた限り、インフレ成長に否定的なのかな?と思っております。
私は経済学のけも知らない素人なのですが、正しいことは知っておきたいと思っております。
後学のため、是非増田先生のご意見をお聞かせ願えたらなと思います。
長文失礼しました。ブログはいつも参考にさせていただいております。
特にクリーンエネルギーといったものの非効率さは目から鱗でした。
投資によって画期的な方法が発見されればいいと思っているのですが、それは難しいのでしょうかね?
コメントありがとうございます。
中国はほんとうに大きな可能性を持っていた国だけに、残念です。
インフレ型成長国家の典型であるアメリカですが、もちろん私はもうすぐ崩壊すると見ています。
インフレ型成長というのは、結局のところイカサマです。つまり、自己資本以上のカネを借りられる国家や大企業が、どんなにインフレが進んでも元利の返済は目減りした名目上の同額だけを払えばいいというかたちで、善良で自分の持家やマイカーの価値以上のカネは借りられず、むしろ貯蓄をしている庶民からカネを巻き上げてする成長ですから、どんなに巧妙に取り繕っても、いつかはボロが出てきます。
今まさに、そのボロが隠しようもないほどの規模で出始めたところだと思います。
発電法ですが、世界中の政府や民間企業が莫大なR&D投資をしても、現在までのところ投入したエネルギー量の60%以上を発電に使えるのは天然ガス複合発電だけです。
複合というのは、ガスタービンを回すことに使い切れず廃熱となってしまうエネルギーで水を加熱して水蒸気タービンも回すので、複合と呼ばれています。
それ以外は、エネルギー源から電力への転換効率が軒並み40%台以下でしかありません。太陽光や風力といった天候だよりの発電の非効率さは、原理的に画期的な発明や発見で補える水準のものではなさそうです。
核分裂という危険な過程を経ずに原子力を利用できる核融合も、何十年も研究を重ねても実用化はおろか、実験室レベルでの安定した出力が得られない状態が続いています。
人類はモノからコト(サービス)へと需要の中心を移転していますし、二酸化炭素悪者論という固定観念を脱却すれば、天然ガス中心になるべく有害廃棄物を少なく抑える化石燃料発電で、十分やっていけると思います。
人類が天然ガスを使いきるところまで進んだ時点でなら、核融合とか、常温超伝導とかの画期的な技術が実用化されている可能性もあるのではないでしょうか。
増田先生はアメリカの借金依存型社会が問題になっていると考えているようです。しかし、私としてはアメリカは覇権国家である方が安定すると考えていますので、なんだかんだで存続するだろうと考えています。アメリカが軍事力をしっかり行使すると宣言しだしたオバマ政権後期やトランプ政権時代の方が、世界情勢は安定していたように思えます。
増田先生の予想としては、将来はどうなるのでしょうか。私は長い時間かけてアメリカから日本に実権の禅譲が起こる気がします。かつて、ローマ帝国が混乱の中解体していく中で、ガリア(フランス)がローマごとヨーロッパを支配するようになったのと似た感じになるかと。(妄想ですが、現在のアメリカ含めた西側諸国の、日本への依存度を考えればありうると思います。)
あと、クリーンエネルギーといったものの非効率さはよくわかります。かろうじて太陽光発電が、雲一つない宇宙空間でのみ最高の発電機になるくらいしか輝く部分はないでしょう。
ただ、私はIGCC(石炭ガス化複合発電プラント)こそ未来の主力になると考えています。IGCCは石炭の質に関係なくガス化するので、燃料の調達コストを安くでき、変換効率が現状でも45%を超えているのが利点です。(将来は50%越えもあり。)そして何よりも褐炭や泥炭を燃料にしても問題ないのが大きい。
最も、増田先生が推す天然ガス複合発電ともども日本発の技術である以上、日本という観点から見たら大差ないのかもしれませんが。
コメントありがとうございます。
オバマ、トランプ時代は多少脅しが効いていたようですが、バイデン政権になってから、いわゆる第三世界、新興国、発展途上国などのあいだで「アメリカ頼るに足らず」感が高まっておりまして、たとえばロシア軍によるウクライナ侵攻への経済制裁を支持したのは、先進諸国とハンガリー、ベラルーシをのぞく東欧圏だけです。
またアメリカ国民は、静かな禅譲をするほどおとなしい人々のようにも見えません。
やはり国内で知的エリートと現場労働者との壮絶な内戦を経て滅びていくのではないでしょうか。
石炭ガス複合発電には、現在まったく目の敵にされている利点があります。
天然ガス発電より二酸化炭素排出量が多いことです。地球は今後かなり急速に寒冷化に向かいますので、食糧増産のためには発熱時になるべく大量に二酸化炭素を発生させるために石炭が見直される時代はやってくると思います。