サッカーワールドカップ2022 カタール大会の今後と日本代表の未来を占う
こんにちは
4年に1度の大イベント、サッカーワールドカップ2022年カタール大会も佳境に入り、ベスト8が出そろいました。
日本代表が善戦むなしくPK戦でまたもベスト8の壁に跳ね返されたのは残念ですが、グループリーグでは、世界にたった8ヵ国しかない優勝経験国のうち2ヵ国を破り、しかもともに逆転勝ちをやってのけたのです。
スペインを2位に従え、ドイツを蹴落としての首位通過ですから、着実に強くなっていることを世界に印象づける大会になったことは間違いありません。
そこで今日は、これまでと趣向を一変して、なぜかトーナメント戦ではいちばんおもしろいマッチアップになることが多い準々決勝の4試合をずぶのしろうととして予想し、ついでに今後の日本A代表を担うのはどんな選手かについても無責任に論評してしまおうと思います。
話題満載の準々決勝4試合
まず8つのグループリーグを1~2位で突破した16チームで始まったトーナメントの勝ち上がり表をご覧ください。
左下は死力を尽くしたPK戦で日本に辛勝したクロアチアが、南米最強のサッカー王国で余裕をもってターンオーバーもしながら勝ち上がってきたブラジルに挑みます。
右上は番狂わせの予感があったセネガルを意外にあっさり破ったイングランドと、レバンドフスキのワンマンチーム感が強かったポーランドに楽勝したフランスです。
右下では、結局8試合で唯一スペインを番狂わせで下したモロッコが、堅守スイスに大量得点で楽勝したポルトガルと対戦します。
キックオフの日時順に、それぞれの過去のワールドカップでの対戦成績を表にすると、次のとおりとなります。
第1試合は日本時間で今週の土曜日、深夜零時キックオフのクロアチア対ブラジルです。過去の対戦は、今やクロアチアの大黒柱として衰え知らずで活躍しているモドリッチが初めて代表に選出された2006年のドイツ大会と2014年のブラジル大会で、ブラジルが2勝しています。
第2試合は同じく土曜日の午前4時キックオフのオランダ対アルゼンチンです。ワールドカップだけで5回顔を合わせており、通算成績は延長までならオランダの2勝1敗2分け、PK戦まで入れると2勝2敗1分けとなっています。
たぶん、ワールドカップでの最多対戦カードではないでしょうか。
第3試合は日曜日の午前零時にキックオフのモロッコ対ポルトガル。120分間0対0で迎えたPK戦でスペインを退けたモロッコが、イベリア半島のもうひとつのサッカー大国ポルトガルに挑戦します。
これはワールドカップでは2度グループステージで対戦していて、1勝1敗でした。
最後の第4試合が、日曜日の午前4時にキックオフのイングランド対フランスです。ワールドカップが始まった1930年にはすでにサッカー大国だったこの2ヵ国が、これまでワールドカップで対戦したのはたった2度で、イングランドの2勝でした。
最後の顔合わせが1982年と、40年も昔のことなのは意外です。
グループリーグを楽に突破したチームが有利か?
今回のワールドカップの特徴は、とくに波乱もなく戦前の予想どおりに1~2位でトーナメントに進む2カ国が決まったグループと、本命が苦戦してどこが通過するか最終戦まで見当もつかなかったグループとにはっきり分かれたことだと思います。
そうなった理由のひとつは、VAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)にゴールライン・テクノロジーも加わって、これまでであればかなりサッカー大国に有利に吹かれていた笛が、ほぼ平等に吹かれていたことだと思います。
日本がスペイン相手に逆転勝ちを収めた三苫からのゴールラインぎりぎりのセンタリングに田中碧が膝で合わせてとった2点目も、前回大会までなら当然のようにゴールラインを割っていたとしてノーゴールに判定されていたでしょう。
審判団としては決して不公平な笛を吹いていたつもりではないでしょうが、サッカーが強いと定評のある国とそうでない国の対戦では、どうしても先入観によって強国のプレイが有利に、弱国のプレイが不利に判定されることが多かったと思います。
そこがかなり公平になったおかげで、多くの番狂わせが生まれたのではないでしょうか。
そこで、ベスト16にたどり着くまでの経過もちょっと振り返ってみましょう。
グループBでアメリカが、そしてグループDでオーストラリアが2位に滑りこんだ以外はグループA~D、そしてGはほぼ順当にトーナメント進出チームが決まりました。ですが、グループE、F、Hは大方の予想を裏切る大混戦だったと思います。
順当だったほうでは、グループAのオランダ、グループBのイングランドは、他の3チームとのあいだにかなり力の差があり、首位通過は約束されていたようなものという印象があります。
一方、有力視されていたグループEのドイツ、グループFのベルギー、グループHのウルグアイは、結局グループステージでの敗退となりました。
グループDのフランスやグループGのブラジルのように、グループステージ最終節はターンオーバーで主力を休ませる余裕のあったチームも、順当にベスト16を勝ち上がりました。
対照的に、グループFを3戦ともベストメンバーで臨んで1~2位で通過したモロッコとクロアチアは、ベスト16戦でどちらもPK戦にもつれこみ、体力的にはかなり消耗しているはずです。
このへんの差が、準々決勝でどう出るのでしょうか。第1試合は、余裕綽々でベスト16を通過したブラジルと疲労困憊して通過したクロアチアの組み合わせです。
クロアチア対ブラジル
大方の予想は、個人技ばかりではなく組織的なプレイも板についてきたブラジルが疲れの溜まっているクロアチアを一蹴するということになっているのでしょう。
でも、私はブラジルが勝つならワンサイドゲーム、接戦になったらクロアチアが勝ち、そしてこの試合の勝者がそのまま優勝する可能性が高いのではないかと思います。
サッカー大国の国籍を持ち、サッカー大国の一部リーグで活躍している選手たち(ブラジルチームはほぼ全員そうです)は、どうしても球際のせめぎ合いで、大けがをしたときの生涯所得の減り方が頭にちらついて甘くなるところがあります。
ところが、国籍がクロアチアのミッドフィールド3人は、現在それぞれスペイン、イタリア、イングランドの一部リーグ有力チームでプレイしていますが、そんな甘さがいっさい感じられません。
モドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチとトップ下が3人いて、同時にボランチも3人いて、合わせて3人にしかならないというぐらい、3人とも攻守にさぼることなく献身的に動き回ります。
さらに前回のロシア大会では準優勝にとどまったクロアチアが今回は優勝するかもしれない理由が、まだ20歳なのに頑健な体つきも、いかついひげ面も、自陣ペナルティエリア内での落ち着きもとうていその若さとは思えないセンターバック、グヴァルディオルの存在です。
日本戦でも、最初の1時間は前田大然、次の1時間は浅野琢磨と対峙しながら、一度もスピードで抜かれた場面なしで守っていました。しかも、折に触れて攻撃参加したときのパスセンスも抜群です。
センターバックはほんとうにきついポジションで、どんなにたびたびピンチを防いでいても、たった一度のミスが失点につながれば敗戦の責任をひとりでかぶらなければならないこともあります。
PK戦を見ていてもわかるクロアチアチームの精神力の強さは、やはり第二次世界大戦中にナチス協力国だった過去によって、ユーゴスラビア連邦内の一共和国だった時代から、国際社会で孤立することが多かった歴史によっても鍛えられたものだと思います。
ブラジル側の注目選手は、守りの堅さもさることながら、試合が膠着状態になったとき、強烈でなミドルシュートをきちんとゴールマウスに入れる技術を持っているボランチのカゼミーロかなと思います。
ただ、カゼミーロが真剣にゴールを狙わなければならないようなゲーム展開だと、有利なのはクロアチアでしょう。
だれが撃ったシュートがゴールになるかにかかわらず、得失点の多いお祭り騒ぎのような展開になれば、もちろんブラジルが圧倒的に有利なはずです。
オランダ対アルゼンチン
グループリーグからベスト16までの試合内容を見るかぎり、オランダが盤石の強さでアルゼンチンを圧倒しそうに思えます。
しかし、オランダは開催国カタールに、セネガル、エクアドルが加わったいちばん楽なグループを順当に勝ち上がり、ベスト16でもアメリカという明らかに力の劣るチーム相手に戦ったので、今大会ではむずかしい試合を一度もしていません。
短期間のトーナメントでは、苦戦を一度もせずに勝ち上がってきた国ほど劣勢に立たされた時のチーム内の意思統一がむずかしく、あっさり負けてしまうことがあります。
それでは、グループリーグ初戦でサウジアラビアに負けてから一気にチーム内が引き締まった感のあるアルゼンチン有利となるのでしょうか。
ふつうのサッカー大国ならそうなるのでしょうが、アルゼンチンの場合、選手全員に何がなんでもメッシが現役のうちにジュール・リメ杯を掲げさせてやりたいという願望が強すぎて、なかなかワールドカップで実力通りの闘いができていません。
ゲームメークをするアンヘル・ディ・マリアが、メッシをおとりに使ってほかのアタッカーを活かす動きができるかが勝負の分かれ目になりそうな気がします。
オランダの攻撃陣で注目すべきは、グループリーグで左足、右足、頭で1本ずつゴールを決めた若いフォワード、コーディ・ガクポでしょう。
ただ、どちらが勝っても、準決勝ではクロアチア対ブラジルの勝者に対して分が悪そうです。
モロッコ対ポルトガル
ベスト16でモロッコがスペインに勝ったのは、歴史的な転換点でした。
1492年にイベリア半島最後のイスラム王朝がグラナダのアルハンブラ宮殿からさびしくモロッコに落ちのびて以来、530年ぶりの北アフリカイスラム勢力によるヨーロッパキリスト教勢力に対する勝利だったと言っても過言ではありません。
モロッコがこの勢いに乗って、今度はポルトガルまで破ることができれば、1415年にタンジールのすぐ東側の岬の突端、セウタの町を攻略されてからじつに607年ぶりのポルトガルに対する勝利となります。
モロッコは、すでに1986年のメキシコ大会グループリーグでポルトガルに勝っているのですが、やはりワールドカップはグループリーグが予行演習で決勝トーナメントこそ本番という印象は否めません。
その可能性はどうでしょうか。大いにあると思います。
そもそもポルトガルはセンターフォワードのクリスチアーノ・ロナウドひとりの力が突出していて、チームとしての総合力はスペインほど高くありません。
そのワンマン、ロナウドがグループリーグ最後の韓国戦で、途中交代させられたあとで韓国に逆転を許したサントス監督の選手起用に不満を抱いています。
ベスト16のスイス戦では、おそらく懲罰的にロナウドを先発から外したものの、大差でリードした後半に交代で出場させました。監督としては勝利の歓喜の輪の中に入れてやろうというつもりだったかもしれません。
ですが、ロナウドのほうは、もう片がついている試合に交代要員として使われたということでいよいよへそを曲げ、ノーサイドの笛とともに勝利の円陣には加わらずにロッカールームに直行してしまいました。
これはもう、準々決勝ではベンチにも入れないほうがチームの和が保たれるのではないかと思えるほど、自分勝手な行動です。
準々決勝のモロッコ戦は、ロナウドを使うにしても、使わないにしてもポルトガル側はチーム一丸という雰囲気にはほど遠い精神状態でゲームに臨むことになるでしょう。
一方、モロッコはゲームキャプテンのセンターバック、サイスが延長に入ったスペイン戦で肉離れを起こした可能性があるという不安はありますが、スペインを撃破して士気は間違いなく高揚しています。
モロッコ側のキープレイヤーは、今大会屈指のボランチ、アムラバトでしょう。
ポルトガル側では、代表に抜擢されてから日も浅いのにベスト16のスイス戦でロナウドに代わって先発して、ハットトリック(1試合3得点)を達成したゴンサロ・ラモスを使いつづけるかが焦点となります。
もし、ロナウドのご機嫌を取るために、準々決勝ではロナウド先発に戻すようなら、スペインに続いてポルトガルもモロッコの軍門に下ることになりそうだと思います。
イベリア半島の2国をイスラム勢力が制圧するとなると、1031年に後ウマイヤ朝が崩壊して以来約1000年ぶりの快挙となります。
イングランド対フランス
はっきり言って、伝統の英仏戦争が準々決勝4試合の中でいちばんの凡戦になりそうな気がします。英仏両国とも、代表はサッカー大国の一部リーグで活躍している高額所得者ぞろいで、球際もきれいで安全なプレイを選ぶことが多くなると思うからです。
前ロシア大会で得点王だったイングランドのハリー・ケインはグループリーグの初戦で足を痛め、戦列に復帰したものの本調子ではなさそうです。ただ、これはかえってイングランドにとってプラスかもしれません。
イングランドチームは相手チームへのリスペクトが強いと、古式ゆかしいキック・アンド・ラッシュ戦法を使いがちです。これは労多くして功少ない戦法で、イングランドのワールドカップでの戦歴があまりパッとしなかった理由のひとつだと思います。
今回のメンバーの中ではキック・アンド・ラッシュに適任のフォワードはケインひとりだけなのに彼が絶好調とは言えないので、今大会では戦況にかかわらずキック・アンド・ラッシュは封印し、その結果大勢の攻撃陣がほぼ均等にシュートチャンスを得ています。
得点をエムバペひとりに頼りがちなフランスより、大勢に得点チャンスを分散させているイングランドが若干有利でしょう。注目選手は19歳でタックル成功率100%、ロングパス成功率91%という完成度の高い攻撃的ミッドフィールダー、ジュード・ベリンガムです。
フランス側では、アントワーヌ・グリーズマンが、どこまでマークがきつくなるであろうエムバぺ以外の攻撃陣に球を回すことができるかが焦点でしょう。
ただ、どちらが勝っても、おそらくポルトガルを撃破して準決勝に進むであろうモロッコに対しては分が悪いと思います。
日本A代表の進むべき道は?
残念ながら今大会ではベスト16のクロアチア戦でワールドカップから姿を消すことになった日本がベスト8へ、そしてその先へと進むためには、何が必要でしょうか?
もっと真剣にペナルティキックの練習をすることも大事でしょう。でも、練習以上に大切なのが何回も修羅場を潜り抜けることでしか身につかない精神力だと思います。
それ以上に重要なのが、日本を格上か同格と認めてのらくらと時間稼ぎのような守り方をしながら、日本側が致命的なミスを犯すことを辛抱強く待つチームへの対応でしょう。
対策は相手に合わせて漫然と時間を浪費するのではなく、何度跳ね返されてもしつこく強引に攻め続けることです。
もちろん、三苫薫のように華麗に守備陣をすり抜けるうまいドリブルも大事ですが、突破はできなくても相手がミスをするまで強引なドリブルを繰り返すことも重要です。
ワールドカップ2022では、森保監督が今までの日本代表にはいなかったタイプの攻撃的プレイヤーをふたり選んでいます。ひとりがサイドアタッカーの相馬勇紀であり、もうひとりがセンターフォワードの町野修斗です。
町野は結局出場機会をもらえず、相馬もコスタリカ戦での先発だけにとどまりました。ですが、今後の日本代表に求められるのは、ディフェンスをかいくぐるだけではなく、ディフェンスを跳ね飛ばしてでもシュートチャンスをつくる攻撃力だと思います。
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